第7話 街を発見

 神を殺すには相応の準備が必要だと言ったエレナさんは、軽い足取りでリリヴィアの神域がある方面へと歩いていく。俺としてはもうちょっと慎重になった貰いたいのだが……エレナさんはもう完全に俺と一緒に神殺しするぜ、みたいな感じになってる。


「ん?」

「どうしました?」


 ずんずんと進んでいたのに、急に立ち止まったからなにかあったのかとエレナさんの前方へと視線を向けても、特になにかあるようには見えない。


「街があるぞ」

「…………え、それどれくらい先ですか?」

「普通に1日歩けば着く距離じゃないか?」


 どんだけ目がいいんだこの人。


「それにしても……神域の周辺に街なんてあったのか」

「そうですよ。エレナさん、神域の周辺には特になにかある訳じゃないみたいなこと言ってませんでしたか?」

「私にあるのは知識だけだからな。しかも、私が森の守護者として教えてもらうような知識は人間の何世代前かわからない情報だ」


 自慢気に言うことではないと思うぞ。

 神域の周辺の情報ですらこれってことは、他の神々がいる場所の情報も基本的に間違っているかもしれないってことじゃないか? あー……これから、エレナさんの言う地形的な情報は話半分で聞いておこう。



 エレナさんは1日歩けば着く距離だと言っていたが、実際には半日ぐらい歩いたらついた。

 一つだけ気が付いたことがあるのだが……ただの社畜として生きていた時では絶対に、途中で倒れていた距離を歩いたのに全く疲れた感じがしない。これってもしかして創世神が俺に与えてくれたチート能力だったりしない? それとも、風の権能が上手いことやってくれてるのかな?


「ふむ……着いたが、全く見覚えのない街だな」

「神域の外側に存在するなんて……近づいただけで処刑されるんじゃないですか?」

「だから森には入らないようにしているんだろう? リリヴィアは人間嫌いだが、それ以上に引きこもりで殆ど外に出てこないからな」


 森の守護者と似てるねって言おうと思ったが、言ったら絶対に変な目で見られるからやめておこう。

 辿り着いた街は、それなりの大きさだった。神域の周辺にあるんだからもっとこじんまりとしたものを想像していたのだが、普通に貴族とかが領主として統治していそうな感じの街だ。

 大通りには人が沢山いて、馬車が時折走って他の方角へと向かっていくのが見える。きっと、その先にも街があるんだろうが……エレナさんの言っていた以上に、神々が統治する街以外も栄えていそうだ。


「じゃあ、ちょっと街中で準備しましょぉっ!?」

「馬鹿、そんなホイホイ入ろうとするな」


 普通に店とかあるみたいだから、ここで戦いに備えて色々と準備しようと言おうと思ったら、エレナさんに服を掴まれて思い切り引っ張られた。そんなことされる原因がわからないのだが……どうかしたのだろうか。


「なんですか、いきなり」

「お前、自覚がないのだろうが……この世界での黒髪は目立つ。自ら来訪者ですと宣言しているようなものだぞ?」

「あ」


 そ、そうだった……あの集落でも髪色で俺が来訪者であることを判断していたっぽいし、この街がリリヴィアの神域近くにあることを考えると……来訪者は碌な目にあわないだろう。


「取り敢えず、私の外套を頭まで被っておけ……それなら、髪色は隠せる」

「ありがとうございます」


 エレナさんが羽織っていた外套を貰ったら……その下から豊満な胸とくびれた腰が出てきて咽そうになった。

 ずっと外套を羽織っていたからあんまりわからなかったけど、エレナさん……物凄い体型だな。なんというか……これが男の理想、みたいな感じ。

 意識してしまうと、エレナさんから渡された外套に籠っている彼女の熱が感じ取れて、これを頭に被ることに抵抗感が……やばい。


「ん? 外套の着方がわからないのか?」

「流石にそれぐらいはわかります!」


 ただ、ちょっと……男にとってかなり刺激的というか。

 とは言え、異世界に来てからのあれこれで、俺が来ていたスーツの上着は既に結構ボロボロだから……エレナさんの外套を着るしかないか。


「よし、まずはお前の服を見繕いたいな……流石に、異世界から来た服装のままでは目立ちすぎる」

「そ、そうですね」


 なんかこの外套……いい匂いが……はっ!?

 お、俺は今、何を……いや、それよりも大事なことがある。


「エレナさん、見繕うとは言いますが……貨幣とか持ってるんですか?」

「……しまったな」


 やっぱり!

 そもそもこの街の存在を知らなかった時点で薄々感じていたけど、この人はマジで危ないよ!


「一応、ゴルドーナとブルガントの硬貨は持っているのだが……リリヴィアの神域近くでの硬貨がどんなものかなんて知らないからな」

「え? そもそもその2つの都市、貨幣が違うんですか?」

「勿論だ。互いの神々が争い合っているから、そもそも交易なんてしていないからな」


 うわー……なんて傍迷惑なんだ、神々って。


「神域とエクストーンは?」

「神域に貨幣制度なんてものはない。エクストーンも、そんなものがあるとは聞いたことがないな」


 やっぱり、神々が争い合って国を統治している世界って滅茶苦茶不便なんだな。

 ブルガントの近くから集落まで行き、そこから神域まで戻ってきたからわかるが……この4柱の神々が存在する場所、そんなに遠くない。なのに、それぞれ貨幣が違うどころか、そもそも貨幣制度がない場所さえある。


「金を稼ぐ方法か……簡単なのは、誰かから依頼を受けることだな。その報酬で金を受け取る」

「依頼って……ギルド……そういうの纏めてる組織とかあるんじゃないですか?」

「さぁ?」


 そりゃあ、そもそもこの街の存在すら知らないんだからそうだよな。

 仕方がない……俺がちょっと聞いてくるかな。


 エレナさんを連れて、大通りから1本外れた道を歩いていると、前から年配の女性が歩いてきた。


「すいません」

「はいはい?」

「この街に来たばかりの旅人なのですが……」

「あら、そうなの? 私に聞きたいのは、協会の場所かしら?」

「あ、そうです」


 きょうかい……神々が直接世界の統治者として降り立っている世界だから、教会こっちではないはずだ。そうすると、多分よくファンタジー小説とかで出てくる冒険者協会、みたいなものかな?


「それで、その道を真っ直ぐ行くと見える一番大きな建物が協会よ」

「ありがとうございます。エレナさん、行きますよ」

「あ、あぁ……感謝する」

「いえいえ、若い夫婦なんでしょうけど、頑張ってね」


 いや、うん……年配の人っていつもあんな感じなこと言うよね。

 ちらりとエレナさんの方へと視線を向けたら……心底不思議そうな顔で首を傾けていた。

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