第5話 権能がなんとか使えるようになった
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「全然駄目だ」
「……駄目、ですね」
滅茶苦茶気合を入れて叫んでいたんだけど……全く駄目みたいだ。
現在、俺は創世神が授けてくれたという権能を発動しようとしているのだが……全く発動できる気がしない。そもそも本当に存在しているのかもわからないのだが、エレナさんはあると確信しているらしい。
「私は確かにお前の権能を2回ほど体感している」
「2回? 1回じゃなくて?」
「2回だ。1回目は、リリヴィア様に殺されかけた時に、ブルガント近くに転移した時。2回目は、あの男と戦いになってお前が私を庇った時」
え、あれってエレナさんがなにかしてくれたとか、リリヴィアの力によって吹き飛ばされたとかじゃないんだ。あれって、俺の持っている権能が暴走したようなものなのか。
「いずれも、お前の命に危機が迫った時だからな。もしかしたらそういう条件があるのかもしれない。だからちょっと叫んでもらったんだが、やっぱり駄目だな」
「うーん……そもそも、魔力? とやらが扱えないと駄目なんじゃないですか?」
「そうだな。ならそこからにするか……それなら私も教えやすい」
そうだよな。権能なんて超常的な能力を、この間までただのサラリーマンだった人間がいきなり使える訳がないんだから、その前段階の部分からゆっくりと学んでいくのがいいと思う。
「魔力は人間の内側から湧いてくる力の呼称でしかない。そこら辺に湧いている訳でもなければ、別に超常現象によって生み出されているものでもない。この世界に生きる人間ならば成長する過程で勝手に理解できるものだ。ゼフィルスのような来訪者には難しいかもしれないが」
「え、ちょっと待ってくださいよ」
人間の身体から湧いてくる力? 神様から授けられた超常能力とかじゃなくて?
「想像しろ。自分が魔法を放っている所を、しっかりと想像することが大切だ。魔法は想像で起こすものではないが、しっかりと自分が魔法を使っている部分を想像できなければ、いつまで経っても魔法なんて使えないぞ」
「こういうのってイメージで威力が変わるのが定石だと思ったんだけど……変わらないんだ」
「いめーじ、とやらがなにかは知らないが、魔法は修練だけで全てが決まる。曖昧な力じゃないからな」
マジかよ……俺が知ってるアニメとかの魔法って、殆どがイメージで威力が左右されていたりしたんだけど、この世界ではそうでもないらしい。
「来訪者って魔力操れるんですか?」
「…………見たことないな」
「駄目じゃないですか!」
「なっ!? 駄目とはなんだ駄目とは!」
いや、来訪者が使えないものを俺が使える訳ないでしょうが!
「はぁ……エレナさんって、思ったよりポンコツというか……常識知らずみたいなところありますよね……俺、別にこの世界の常識とか知りませんけど」
「ぽんこつ……絶対に私を馬鹿にする言葉だってのは理解したぞ」
なんでそういうところはちょっと勘がいいのだろうか。そんな勘が働くなら、さっきの場面で俺が魔力使えないことをもっと早く気が付いて欲しかった。
「来訪者が魔力を使えるなんて話は一度も聞いたことはないが、お前は創世神に権能を与えられているのだろう? なら、取り敢えずは魔法と同じような感覚で扱うしかないだろう」
「まぁ……やってみるしかないですよね」
そりゃあ……そうだな。
まず、想像する……自分がどんな魔法を使えるのかを。
「自分の内側に存在する漠然とした力を感じ取れ。それが自らの力の本質だ……魔力ならな」
「いちいち、ちょっと不安になること言わないでください」
俺が最初にリリヴィアから逃げ出した時に感じたのは……風だ。そして、さっきの集落でエレナさんを庇った時に感じ取ったのも……自分に纏わりつくような風。
きっと、俺の持っている力は風に関係のあるものなんじゃないかと予想する。というか、そうじゃなかったらマジでもうわからない。
「自分の力が理解できたら、次はその力を内側から引き出して外に押し出すんだ。その過程で自分の好き勝手に事象を変換するのが魔法だが、今は取り敢えず外に出すだけでいい。まずは体外に放出することを覚えろ」
「ふぅ……身体から、風を……」
身体から風を出すってどうやるんだよ。
口から風を吹き出す……いや、滅茶苦茶ダサいな、駄目。じゃあ手から……手から風を出すってどういうことなのよ。あとは……えーっと……身体から?
「よくわかんないけど、えーいっ!」
「そ、そんな適当な感じで出すなっ!」
え?
エレナさんがなんか怒ってるけど、そんな声が聞こえないぐらいの暴風が身体から吹き出るのを感じ取れた。これが……俺の持っている力!
「どうですかエレナさん、できましたよ! 俺だってやれば……エレナさん?」
身体から風が出ているのに興奮して、ちらっと周囲を見たら……地面が滅茶苦茶に荒れていた。俺を中心に数センチ以上の深さに地面が抉れ、周囲数十メートル規模の円形範囲にクレーターのようなものが出来上がっていた。
「これ……もしかして、やばい?」
「流石は神の権能だな……まさか適当にぽっと出しただけでこれほどの威力になるとは……末恐ろしい能力だ」
「あ、エレナさん」
どうやらクレーターの外まで逃げていたみたいで、エレナさんは驚いたような表情のままこちらに近寄ってきてくれた。
「ふむ……ゼフィルス、お前は風に関係のある血族だったりするのか?」
「え? 別にそんなことは……」
「なのに、こんな風に特化した能力を持っているのか。お前の持つ権能は、正しく『神風』と呼ぶべきものだったが」
神風……あ。
「あの……俺の名前……西風って言うんですけど」
「にし……ゼフィルスだろ?」
「まぁ、ゼフィルスもそうなんですけど……とにかく『風』って意味の名前なんです」
「そう、なのか。やはり風の血族だろう」
いや、ただの苗字ですけど。
まぁ……名前を貰ったゼピュロスは確かに西風の神様ですけど……そんな偶然ある?
「とにかく、風の権能とは素晴らしい力だな」
「そうなんですか?」
「あぁ……風とは死を運ぶものでもあるが、豊穣を運ぶものでもある。簡単言うと、万能な力だな」
そう……かな?
現代日本で生きていた俺からすると、風なんて冬に吹くと寒くて、夏に吹くと涼しいぐらいの認識だけどな……この世界では特別なのかな。
「創世神がそれだけお前に期待していたということかもしれないな」
「本当にそうだったら嬉しいですけどね」
そうじゃなかったらどうしよう。
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