第3話 俺は神の使者だったらしい
命の危険を感じて目を閉じたら……温かい風が俺の身体を撫でた。
しばらく目を閉じていても……全く痛みがやってこないので、おっかなびっくりに目を開けると……そこには呆然としてなにが起きているのかわからないって顔をしているエレナさんの顔。背後には、ひっくり返って驚いている茶髪の男。
「その、力は」
「……来訪者が、こんな力を?」
え? そんな「お前にはそんな真の力が存在していたのか」みたいな顔をされても、全くわからないって……なんなの?
「い、今……お前を中心に爆発的な風が吹き荒れただろ? もしかして、中心にいながら全く感じなかったのか?」
「な、なにも……ただ目を閉じていただけです、けど」
エレナさんが困惑しながら俺のことを疑っているようだけど……マジで俺は何もしてない。
「今のは、間違いなく神の権能だった。まさか……君は創世神が遣わした神の使者なのか!?」
「えぇ!?」
なにそれ知らない!
「創世神、だと?」
「あぁ……ついに、現れたのか! 君がその神の使者……間違いない!」
勝手に興奮しないでくれ!
「あぁ、すまない。その様子だと、なんの説明も受けていないらしいな……とにかく色々と説明したんだが、その前に森の守護者は排除しておかないといけないんだ」
「ほう? 来訪者とこの世界の血、半々のお前が私を本気で倒せると思っているのか。さっきの冗談だとして見逃してやってもいいが……次に襲い掛かってくるなら殺す」
「それはこちらの言葉だな。まさか神の使者を狙ってこんなところまでのこのこと……必ずここで息の根を止める」
「だからストーップ!」
ダメなんだって! ちゃんと俺の話を聞いて欲しい!
「あの人は俺のことを生命の神リリヴィアから庇ってくれて……そのせいで行き場所を失ってしまったんだ! だから、あの人のことを傷つけないでくれ! エレナさんは俺の、恩人なんだ!」
大きな声を出して、なんとか止まってもらおうと思ったんだが……思ったよりも大きな声だったのか、茶髪の男は驚いたって表情のまま固まっていた。
「森の守護者が、神に逆らって来訪者を保護した?」
「……まぁ、今にしても思えばとんだ馬鹿なことをしたものだと自分でも思うが……事実だな」
あ、驚いているんじゃなくて信じられなくて固まってるだけだ、この人。
「全く信じられない話だが……使者様が庇うのは2度目か。おい森の守護者……今回だけは見逃してやる」
「はっ……それは嬉しいことだな」
「エレナさんも煽らないでくださいよ」
面倒くさいんですから。
「それで、その……創世神がうんたらかんたらみたいな話を、全部教えてくれませんか? 俺、本当になんにも知らなくて……」
「……わかりました。なら集落の中へどうぞ」
ようやく、集落の仲間で辿り着けそうだ。ここまで随分と長かった気がするけど……もしかしたら俺がこの世界にやってきた理由がわかるのかもしれない。そう考えれば、もう少しだけ頑張ってみようと思える。
なんか突っ立っているエレナさんの手を取り、一緒に男の人の背中を追う。
エレナさんも一緒に集落の中に入り、案内された木組みの建物の中に入る。なんとなく日本家屋っぽい作りになっているのは、やはり来訪者の村だからだろうか。
案内されるままに部屋に入り、畳らしきものの上に座ると……ようやく落ち着けた気がする。
「お茶です」
「あ、ありがとうございます」
お茶なんて育ててるのかな……よっぽど日本が忘れられなかった人がいるんだな。
「さて、どこから話したものか……まず、創世神について、ですかね」
「お願いします」
その創世神とやらが俺をこの世界に連れてきたのだとすると、そこからしっかりと聞いておかないといけない……そうしないと、納得できない。
「創世神とは、この世界の主とも呼ぶべき存在です。この世界を作り、人間を作り、神々を作り、自然と作り、法則を作った原初の神……それが創世神です」
「それは、わかりますけど」
「創世神はこの世界の秩序だったのです。しかし……神とて永遠不滅の存在ではありません」
「馬鹿を言うな。神々は永遠不滅の存在で、我々人類を導く上位存在であると」
「使者様、これが……現在地上を支配している4柱の神々が作り出した嘘です」
嘘、か。
「そもそも創世神は、この世界を適切に動かすために今の神々を生み出しました。繁栄を意味する黄金の神イザベラ、この世の生死を司る生命の神リリヴィア、闘争と勝利の化身である戦争の神ガンディア、運命を表す星々の神グリナドール」
「……それは、エレナさんに聞きました」
「この神々は、創世神の力を分け与えられた存在です。彼らが力を合わせれば……この世界で解決できないことなどありません」
つまり、文字通り万能を力を持っていた創世神は、いつかやってくる自分の滅びを理解していたから、自分と同等の力を分け与えた、ということかな?
「そして……創世神の懸念した通り、かの神に終わりが訪れ……世界がゆっくりと滅び始めているのです。来訪者とは、その滅び始めた世界の綻びに転がり込んでしまった存在なのです」
「ちょ、ちょっと待て。お前の話が本当なのだとしたら……来訪者が存在している時点で、この世界は滅びかけているとでも言うのか? それも随分と昔から」
「そうです」
なんてこった……俺はそれぐらいにしか感じないけど、きっとこの世界に生きているエレナさんからしたら、足場が崩れて落ちていくような感覚だろう。
「創世神は、この世界の滅びに関しても対策を講じていました。その1つが……神々の存在なのです。力を合わせることで創世神と同等の力を扱える彼らが協力すれば、世界の崩壊は止まります」
「なら、簡単じゃないですか?」
「……いや、それは無理だ」
「はい、無理です」
え、なんで。
「4柱の神々は……互いを敵視している。全員が創世神の正統後継者を名乗り……他の神々が持つ力……つまり、司る権能を奪い取ろうと争い合っている」
苦々しい表情でエレナさんはそう言った。
「え、じゃあ世界が崩壊しかけているけど神々は親の立場を継ぐことの方が大切で、お家騒動が勃発。その間にも世界が崩壊しかけているってこと?」
「簡単に纏めるとそうですね」
え?
神ってもしかして……馬鹿しかいない?
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