第2話 来訪者の集落
「聞いてなかったんですけど……4柱の神々が支配する場所以外に、人が住むことなんてできるんですか」
「何故だ? 人間なら別に衣食住があれば生きていけるだろう?」
「いや、そうなんですけど……」
こういう神様が支配している世界とかだと、神様がいる場所以外はとっても危険な場所で、人間はその庇護下でしか生きることができないとかだったりするじゃん。
「何を心配しているのか知らないが、神の支配領域でなくても人間は生きていけるぞ。ただし、闇の力によって生まれた異形の存在にさえ気を付ければな」
「……闇の、力?」
なにその、男の心をくすぐるようなワードは。
「創世神が世界を生み出した時、この世には光と闇が両方生まれたそうだ。光は創世神の妻、つまり現在地上を支配している神々の母となったそうだが、闇は反対に創世神に敵対し、地上に生きる全ての生命の穢そうとしたそうだ」
「じゃあ、創世神が倒したんですか?」
「光と闇は表裏一体……そして、その2つが存在しているからこそ、この世の中は安定しているらしい。創世神はそれを知っていたから、闇を滅ぼさずに大地に封印したそうだ」
へー……まぁ、割とありがちな創世神話って感じの話だけど、実際に神と相対したからそれが本当なのかもしれないと思うと……恐ろしい話だな。生命の穢す闇、か。
「ゼフィルス、お前は異世界からやってきた来訪者だから、この世界の常識には縛られない存在だ」
「と、言うと?」
「お前たち来訪者は、光でも闇でもない存在だ。だから、光と闇に干渉されることはなく、逆に干渉することもできない」
つまり、この世界に生きる存在……目の前にいるエレナさんも含めて、全員が闇に触れたら穢されてしまうけど、俺みたいな来訪者はそもそも光と闇の概念で生まれていないから、闇に触れても平気ってことか?
「ただ……それを「はいそうですか」と諦めるほど『闇』という存在は素直じゃなくてな。来訪者に対抗できる存在として、闇の力から異形の存在を生み出したとされている」
「え、じゃあ異形の存在ってのは」
「来訪者にも干渉してくる。逆に干渉することもできるがな」
かなり面倒で陰湿な野郎だな、その闇って奴は。
「来訪者が神々から忌み嫌われている理由は知らないが、もしかしたらその別の摂理で生きているという部分が合わないのかもしれないな。神々はこの世界の摂理が形を成したようなものだ……だから、それから逸脱したお前たち来訪者が気に入らない……とか」
「面白い推論ですね……でも、そんな生易しい憎悪じゃなかったですよ、あれは」
今、冷静になって振り返ってみると……生命の神リリヴィアは来訪者である俺の存在を害虫のような目で見ながらも、どこか恐怖を感じていたような気がする。もしかしたら……その簒奪者って話も、そこら辺から来ているかもしれない。
しばらく騎士の王国ブルガントから離れるように歩いていると……遠くに集落が見えた。エレナさんに視線だけで問いかけてみるが、肩を竦められてしまった。まぁ……エレナさんはリリヴィアの神域から出たことがないって言ってたから、大国は知っていたとしても、小さな集落なんて知る訳がないよな。
「よし、まずはあの村に行ってみましょう」
「お前ら、余所者だな」
何はともあれ、エレナさん以外の人間とも喋っておきたいと思って集落を指差したら、いつの間にかエレナさんと俺の間に1人の男が立っていた。
慌てて距離を取りながら男の顔を確認すると……仮面とフードを被っているので声と体格から男だということしかわからないが……足取りからして思っていたよりも若そうだ。
「あそこは俺たちの村。関係ない奴らが立ち入ることは……お前、来訪者かっ!?」
仮面の男が刀を抜いた後、俺の顔を見てから驚いたような声を出した。
え、なんで来訪者って一瞬でわかるの?
「間違いない……そんな黒髪は来訪者以外にあり得ない! お前、日本人だろ!」
「えぇ!?」
来訪者って言われるのはギリギリ理解できるけど、日本人なんて言われるとは思わなかった! なんで俺が日本人だってわかるんだ……って、黒髪だからか?
急に興奮しながら俺を日本人だと言った仮面の男は、エレナさんなんて最初からいなかったかのように無視して、仮面とフードを取った。そこから出てきたのは、端正な顔立ちをした青年。
染めたような違和感がない地毛からの茶髪に、こちらもまた綺麗な色の薄い茶色の瞳。俺は一瞬だけ、同性なのに目を奪われてしまった。
「手の甲に奴隷の証が付けられていない……もしかして、この世界に来たばかりの来訪者か? なら運がいい……あの集落は、来訪者たちが住む村なんだ!」
「そ、そんなものが……」
ちらりとエレナさんの方に視線を向けると、彼女も驚いたような表情をしていた。大国以外にも人間が生きている場所はあると言っていたが、まさか来訪者だけの集落があるなんて思ってもいなかったんだろう。
来訪者しかいないなら、倫理観だって俺が元々いた世界に近いだろうから……是非とも行かせてもらおう。なんて俺が考えた瞬間に、茶髪の男はエレナさんに向かって刀を振るった。
「ちょっ!?」
「……やはりか」
エレナさんは予想通り、みたいな言葉を口にしているが……俺からするといきなり刀を振るってようにしか見えないんだが!?
「な、なにしてるんですか!?」
「ん? あぁ……安心しろ! あれは森の守護者と言って、生命の神リリヴィアが生み出した神域の守護者……同時に、来訪者を狩る神の使徒だ」
え、エレナさんが来訪者を狩る、使徒?
「……私は、リリヴィア様から見捨てられた。もう森の守護者ではない」
「知ったことか。どれだけの同胞が、お前たちの手によって殺されたか……許す訳がないだろう」
「同胞か……お前、来訪者の子孫だろう? 正確には、来訪者本人ではない」
え!?
「……確かにそうだ。俺は日本人の来訪者とこの世界の人間の間に生まれた……だが、俺の心は来訪者だ。だからお前たちと敵対している!」
「そうだな……来訪者は無力だ。だから、この世界の血が混じったお前が集落の防衛をしていると言ったところか。結局、都合のいいように使われているだけではないか?」
そんな……エレナさんも剣を抜いて臨戦態勢になっているし、茶髪の人も完全に目が殺す気だ。
「黙れ、神の操り人形が……殺されてきた来訪者たちの恨み、受けてみろ!」
「ちょ、ちょっとストーップ!」
慌てて2人の間に入ろうとしたが、既に2人の武器はぶつかる寸前……このままだと俺の身体を貫通して、俺は死ぬ。後先考えずに飛び込もうとした俺が馬鹿だった……マジで、死ぬ。
自分の死を予感してゆっくりと目を閉じたら……温かい風が俺の身体を撫でた。
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