第47話 サプライズ

「とりあえず適当にピザとかチキンとか、色々出前を頼んだんだけど、他に食べたいものがあったら遠慮なく言って」


 キンキンに冷えたグラスに黄金の炭酸と純白の泡をビールサーバーで注いで乾杯の用意を進めた。まだ誕生日を迎えていない明日花さんだけはノンアルコールの食前酒を用意してもらったようだ。


「んじゃ、カンパーイ!」


 喉ごしが爽快でクリーミーな泡も美味しい。このグラスも繊細な切子細工が施されて、絶対に高いに決まっている。


「可愛いグラスだね。これって星座?」

「おっ、さすが気付いた? 実は葉月さんと明日花ちゃんのグラスは特注で、二人の星座を刻印しているんだよ。明日花ちゃんはもうすぐ誕生日でしょ? 俺からのサプライズ」


 と、特注グラス?

 ちょっ、そんなサプライズしないで下さい!


 だが、気付いた時にはすでに遅し。

 そう瑛太さんに悪気はない。だからこそ困るんだ、その気遣い。


 ハイテンションになった女性陣は、すっかり気をよくしてどんどんお酒を飲んでいった。


「瑛太さんが家飲みを計画した理由がよく分かった。抜かりないな、本当に」

「今日の俺は一味違うぜ? 葉月さんに関しては全力だからな」


 好きな人に尽くすのはいいけれど、流れ弾で俺の誕生日サプライズを霞ませるのはやめて下さい。

 このグラスだけで、いくらするんだろうと苦笑いが溢れた。


「っていうか、俺のグラスは? 特注じゃないんですか?」

「ん? ピザ? ピザ食うか、壱嵩」

「誤魔化すな、このエロ先輩」


 その後も他愛のない会話を交わして楽しい時間を過ごしたのだが、肝心の葉月さんと瑛太さんの距離は縮まらないままだった。

 それも仕方ない。葉月さんが明日花さんの隣をしっかりキープして離れようとしなかった。


「やっぱり警戒してるのかな? 葉月さん、瑛太さんと距離を取ってるね」


 飲み物を取りにきた明日花さんがコソっと耳打ちしてボヤいた。縮まりそうで縮まらない二人の距離。前に飲みに行った時はなかった距離感に、二次会の際に何をしたのだろうとモヤモヤした感情が広がっていった。


 仕方ない、作戦を決行するしかない。


「あの瑛太さん。俺達ゲームしたいんですけど、面白いソフトとかありますか?」

「ゲームソフト? 一応、モリオパーティーやカートとかならあるけど」


 まずは二人の距離を近付けるためにチームバトルを申し込んだ。もちろん組み合わせは俺と明日花さん、瑛太さんと葉月さんペアで、負けた方は罰ゲームが課せられる。


「最初はビール一気飲みで行きましょう。手加減無用ですよ、瑛太さん」


 ちなみに罰ゲームはどんどん過激になっていく予定だ。俺は先輩にアイコンタクトを送り、ニッと笑った。


「よし、負けねぇぞ壱嵩」

「望むところです! 俺も勝たせてもらいます」


 そう、この八百長ゲームでどんどん罰ゲームをさせて、距離を縮める作戦だったのだが、だったのに………この空気を読まないアホ先輩は、初心者相手に無双を誇っていた。


「次は明日花ちゃんブレンドの激マズドリンク一気飲みー! ほら、敗者の壱嵩、一気飲みー!」

「いや、何で俺ばかり罰ゲームを⁉︎」

「そりゃー、お前が弱いからだろう? そのドリンク飲んだら、残っていた罰ゲームの三分無慈悲のコチョコチョタイムを決行するぞ」


 いつの間に用意したのか、三人とも悪い笑みを浮かべて筆を手にしていた。


 違う、こんなはずじゃ——!


「壱嵩が拒むなら、ペアの明日花ちゃんに耐えてもらおうかなー? なぁ、葉月さん」

「それはそれで楽しみー♡ 私はそれでもいいけどー」


 くっ、アイツら弱味につけ込んで卑怯な!

 俺はドス黒い色をしたドリンクを飲み干して、覚悟を決めて横たわった。


「っていうか、これマズ! 何を入れたん明日花さん⁉︎」

「えーっと、うん。色々?」


 目の前がグラグラ揺れて、吐き気とか発熱とか、色んな症状が全身を巡る。これは命に支障はないのだろうか?


「はいはーい、んじゃ次はコチョコチョタイム。俺がコイツの手を押さえておくから、心ゆくまでくすぐっちゃってー」


 両手首を頭上で拘束され、一番の弱点であるワキが露わにある。


 え、これ恐い。しかも両太ももにも明日花さんと葉月さんが乗っかって身動きが取れない。


「いや、ちょっと待って……っ、うひゃっ! やめ、や……っ、はッ、んンッ!」


 無理無理無理! こんなん耐えられるわけがない!

 なのに容赦ないくすぐりが絶え間なく襲いかかる。やめて、本当にやめてほしい!


「ふふふっ、やっぱり壱嵩さんって遊び甲斐があるね。もーっとしてあげるね♡」


 やめろ、葉月さんの目がマジ過ぎる!

 必死に手足をバタつかせるが思うように動かない! って、どさくさに紛れて服を脱がせるな! 脇腹攻めるな、乳首を筆先で弄ぶな!


「あー、最高だった♡ ねぇ、次の罰ゲーム……二人でするのに変えようか? 四人プレイで、勝った人は好きな人に一分間チューってどう?」


 葉月さんからの思いもよらない提案に動揺が走った。え、チューって、何処に?


 ってか、葉月さんや瑛太さんが勝った場合、どうなるんだ? 特に葉月さんは誰を指名する気だ? 瑛太さん? それとも明日花さんか⁉︎


「えー、葉月さんいいのー? 今の所俺が勝ちまくってるけど、俺が勝ったら葉月さんを指名しちゃうよ?」

「だから今度のゲームはフェアに運ゲーにしよう。箱の中の爆弾を最後まで引かなかった人が勝ちね」


 それなら俺や明日花さんにも勝ち目はあるけれど……葉月さんが勝った場合が恐ろしくて想像もしたくない。


「んじゃ、皆! いっせーので選ぶぞ⁉︎」


 果たしてこのゲームの勝者は——……⁉︎



 ———……★


「次回に続く!」

「………こんな時に『明日の更新はお休みします』って言われたら、怒り狂っちゃうよね」

「——作者さん、どうか執筆よろしくお願いします」


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