スペシャルサンクスSS 明日花とシウ【そしてもう一人……】

 久々にジムにきた私は、一通りのトレーニングを済ませて帰る支度をしていた。帰りに晩御飯の買い物を済ませて、浴槽も洗わないと。


「あー、明日花ちゃん? 久しぶり、何ヶ月ぶりかな? 相変わらず可愛いねー」


 このジムで軽快な口調で話しかけてくるのは一人しかいない。振り返ると案の定、プロテインを口にしながら歩いてくる水城さんの姿があった。


「水城さん。お久しぶりですね」

「うん、何ヶ月ぶり? 明日花ちゃんサボり気味だったでしょ? だって俺は毎週来てたし。きっと彼氏と仲良くし過ぎて来る暇なかったんでしょー?」


 え、何も話していないのに、どうして分かったんだろう?

 壱嵩さんのことを思い出してニマっと笑みが浮かんできた。


「——え、マジで? えぇー、明日花ちゃん彼氏出来たん? うわ、オッちゃんちょっとショック! 彼氏、羨ましいなー」

「今日は彼氏が仕事だったんで、暇を潰す為に来ました」

「くっ、幸せオーラが眩しいぜ……! いいなぁー、俺も付き合いたての初々しい気持ちを思い出したい! え、付き合ってどれくらい? 色々話が聞きたいから、ちょっとお茶でもしない?」


 壱嵩さんが帰って来るまで時間もあるし少しくらいなら問題ないけど、水城さんはいいのだろうか?


(男の人と二人でお茶は壱嵩さんが嫌がりそうだから、できれば避けたい。だって私も壱嵩さんが女性とご飯とか行ったら嫌だもん)


「人にされて嫌なことはしない主義なので、行きません」

「何その拒否理由! 待って、そんなに俺とのお茶が嫌なの? えー、俺達ってそれなりに仲良くなったと思ったのに?」

「別にそう言うわけじゃないんですけど……」

「いやいやいや、ちょっと待って!」


 トレーニングルームを出ようとする私の腕を掴んで、必死に引き止める水城さんだったが、見る人が見たら誤解を招きかねない光景だった。


 そう、そう言う時にこそ不運は訪れるのだ。



「な、何をしてるんですか? 水城さん——……」


 そこには子供を抱っこした二人の女性。彼女達を見た瞬間、石像のように固まって青ざめていった。


「シウちゃん……和佳子ちゃん……?」

「うわー、水城さん。こんな可愛い子を口説いて最低ー。胡桃さんにチクっちゃおーっと」

「違うんだって! これには深い事情が! うわー、待って! スマホを取り出さないで、写真を撮らないで‼︎」



 その後、何とか誤解を解いた水城さんは、一騒動のお詫びに女性陣にケーキを奢ってくれることとなった。男性と二人きりは申し訳ないが、複数人でなら壱嵩さんも嫌がらないだろう。


「えーっと、彼女はジム友達の明日花さん。最近彼氏が出来たって言ってたから話を聞こうと思ってお茶に誘っていたんだよ」

「コンニチハ、鈴木明日花です」


 水城さんの知り合いのシウさんと和佳子さん。二人とも若くて可愛いのに、もう赤ちゃんを抱っこしていて驚きを隠せなかった。

 特にシウさん。モデル並みに綺麗な顔立ちなのに、双子のママなんてスゴい。


「やっぱり水城さんって可愛い子に目がないんですね。せっかく胡桃さんが『毎週のようにジムに行ってて偉い』って褒めていたのに」

「違う違う違う! 明日花ちゃんはたまたまでー、ねぇ? あ、俺ちょーっとお客さんから着信あったから電話して来るよ! 3人でごゆっくりー!」


 そう言葉を残して、そそくさと去っていった。私は険悪な雰囲気の中、初対面の二人と共に残されてしまった。


「アハハー、何か水城さんらしいって言えばらしいけど、ねぇシウー」

「明日花さん、本当に水城さんとは何もない?」


 和佳子さんは笑っていたけど、シウさんは疑うような目で見つめてきた。勝手に疑われて、責められて、これはあまりいい気はしない。


「大体私には大事な彼氏がいるのに、水城さんと何かあるわけがないです」

「でも、世の中には平気で浮気をするような人もいるから。ねぇ、和佳子」

「え、いや、でもね? 明日花ちゃんもこう言ってることだし、ねぇ?」


 そもそも壱嵩さんを悲しませたくなくてお茶も断ろうと思っていたのに、浮気なんてするわけがない。


 もしかしてシウさんの旦那さんが浮気をするような人だから、疑い深くなっているのだろうか?


「なっ! ユウはそんな人じゃないから!」

「私もそんな人じゃないです。これが私の彼の写真です。こんな素敵な人がいるのに浮気なんてすると思いますか?」


 私はフォルダーの中に入っている厳選アルバム写真を見せつけた。


 これはこの前、一緒に買い物に行った時の写真。これはケーキを食べてご満悦な写真。一緒に運動している時の写真、そして寝顔、お風呂上がり……。


 納得してくれたのか、食い入るようにスマホを見る二人。

 この写真は特にお気に入りだ。たくさん甘え合った後の甘美で色っぽい寝顔だ!


「あわわ……っ、あわ! 明日花ちゃんの彼氏ってイケメン! しかもめちゃくちゃ仲良しで羨ましい!」

「そうなんです! しかも優しくて、私のことを大事にしてくれて最高の彼氏なんです!」

「いいなー、そんな素直に好きって言えるの! ねぇ、シウ。私達もこんな初々しい時期があっ………」

「——もん」


 ………え?


「ユウの方がもっと素敵でかっこいいもん! 明日花さんの彼氏よりもずっとずっとユウの方が素敵だもん!」


 クールビューティーだと思っていたシウさんが壊れ始めた! いや、そんなことを言われても、シウさんの彼氏がどんな人か知らないし!


「ユウはユウは! 誰よりも優しくて、いつも私の傍にいてくれたんだから! いつも子育てで疲れている私を気遣ってご飯とかも作ってくれるし、子守もしてくれるし! 見た目もこんなにカッコいいんだから!」


 そう言って見せられた写真だったが、何処かで見た記憶が——……。


「あ、あの時、壱嵩さんが充電ケーブルを貸した……! あのカッコいい人がシウさんの旦那さんだったんですか?」

「え、ユウを知ってるの?」

「はい、実は先週……」


 私は壱嵩さんとユウさんのやり取りを話し、細かく説明をした。その時の話はシウさんも聞いていたらしく、こんな偶然があるなんてと二人して驚いていた。


「珍しくユウが褒めてたからね。ユウが男性を褒めたのは雪村さん以来だし、そんな良い人が彼氏なら、水城さんに浮気なんてあり得ないね」

「そんなイケメンだったの? へぇー、ユウさんも相当な紳士なのにね」

「かなり好青年だってベタ褒めしていたよ。本当のイケメンは見た目だけでなく、中身も良い男だって」


 やっと誤解が解けて、私も満足だった。

 そうなんだ、壱嵩さんは私の自慢の彼氏なんだ。


「ねぇ、明日花さん。ユウがお礼できなかったことを悔やんでいたの。良かったら今度、皆でご飯にでも行かない?」

「いいですよー! それじゃ連絡先を交換しましょ? それと……良かったらお二人に結婚の秘訣を教えてもらいたいんてますが、色々教えてもらえませんか?」

「いいよー、任せてよ! 私達も明日花ちゃん達のラブな話を聞きたいし♫」



 こうして恋バナで盛り上がる女性陣を他所に、入るタイミングを失った水城は、ただただ見守ることしかできなかった。



———……★


「でも、可愛い明日花ちゃんに鼻の下を伸ばしていた事実は変わらないので、胡桃さんには報告させてもらいまーす!」

「そりゃないよ、和佳子ちゃーん!」


NTRされた彼女×明日、その花はコラボ第2弾でした✨

二つの世界を繋いでいた水城が運んだ縁。

水城も悪気はなかっただろうけど、これは悪手だったとしか言いようがない(笑)

ちなみにシウと和佳子さんは、ジムにベビースイミングの見学に来ていた設定です✨


きっと三人とも大好きな人について、思う存分語り尽くしただろうも思います^ ^

水城の奢りで(笑)


NTRされた彼女。孕まされて捨てられたので、一緒に育てることにしました/中村 青 - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16817330665032269464/episodes/16817330665042329766

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