第44話 重たすぎる愛【R−15】
「ねぇ、壱嵩さん。明日は休みだよね?」
毎度恒例の確認行為。
きっと聞かれるとは思っていたけれど、期待を裏切ることなく聞いてくれる明日花さんが可愛くて堪らなかった。
「うん、休み。せっかくだからどこか遠出でもする?」
「え、遠出? んー……ううん、遠出はいいよ」
欲しい言葉がもらえなくて、分かりやすく拗ねる彼女に安堵するように笑みを浮かべた。そわそわと唇を尖らせながら、ハグするタイミングを見計らう明日花さんは、まるで待てを指示された子犬のようで愛らしい。
でも子犬よりも忍耐性がない彼女は、我慢できないと飛びつくように抱きついてきた。
「もう、壱嵩さんも分かってるくせに。意地悪」
「別に意地悪するつもりはなかったんだけどな」
遠出まではいかなくても、買い物には出かけたかった。もうすぐで彼女の20歳の誕生日だ。誕生日プレゼントは決めていたのだが、デザインは彼女に選んでもらいたかったのだ。
「あと一ヶ月ちょっとで、出逢って一年だね。あっという間だったね」
「うん、本当だ。俺、明日花さんと出逢ってから人生がガラッと変わったから、感謝しかないよ」
「それは私も一緒だよ。壱嵩さんと出逢って、一緒になって……ずっとずっと幸せが続いているよ。私と出逢ってくれて……私と一緒になってくれて本当にありがとう」
彼女は——本来だったら受け取るはずだった母の愛を、事故という不運で失くしたのだ。
それまで順調に愛され、愛して、満たされていた彼女と、初めから空っぽだった俺じゃ、あまりにも違いすぎて、俺なんかが傍にいていいのか自信がなくなる。
俺は、だって俺は——……………
だけど、彼女の柔らかい唇の感触が、いつも思考を停止させる。
この真っ直ぐに見つめる瞳が、俺の汚い心の奥まで見透かすように射抜いて。
いや、実際は何も考えていないんだろうけど。きっと快感とか、好きとか愛とか、そういうものでいっぱいだろう。
そしてそんな明日花さんの愛が、どんどん俺の中で募って満たされる。
「——明日花さん、俺……っ、好きだ。好きだ……明日花さんのことが好きだ。だから、俺を」
彼女と交わり、肢体も指先も全部絡ませて、身体も心も思考も、過去も未来も今も全て——……。
「私も大好きだよ。ふふっ、何度言われても嬉しいね。これからもずっと、たくさん好きって言い合おうね」
彼女の綻ぶような優しい笑みを見たら、それだけで幸せになれる。
母さん、あなたは俺を産まなければ良かったと呪いのように口にしていたけれど、今は胸を張って言える。
「俺、生まれてきて良かった。明日花さんに出逢えて、良かった」
———……★
「少しずつ、少しずつ……それでいい」
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