NTRされた彼女。孕まされて捨てられたので、一緒に育てることにしました

中村 青

第1話 私がユウくんのお姉さんになってあげる

 赤ん坊特有のミルクの匂いと柔らかいプニプニのほっぺと小さな手。反射的に掴む手のひらに指を添えて、幼馴染のイコは反応を楽しんでいた。


「可愛いー……、ねぇ、お母さん! ユウくんウチに連れて帰ってもいいかな?」


「ダメに決まってるでしょ? もう、あの子ったら何を言ってるのかしら」

「ふふふ、それだけユウのことを可愛がってくれてるってことでしょう? いいのよー」


 そんな母親達の会話を他所に、イコは赤ん坊の口にチュー……っと強烈なキスを交わしていた。それには流石の母親達も慌てて引き離したが、そんな二人を他所にケラケラと笑うイコが好きだった。


 ———まぁ、いくらなんでも赤ん坊の頃の記憶はないけれど、田舎育ちの自分達はずっと一緒に過ごしてきて、イコの笑顔を一番そばで見てきたから、昔から同じ表情で笑ってたのだろうと容易く推測できた。


 ずっと、ずっと、イコの背中だけを追いかけて。二人は五歳も年が離れていたけれど、純真無垢に笑う彼女が大好きだった。


「イコちゃん、ボク……大きくなったらイコちゃんと結婚したい」

「うん、イコもユウくんのことが大好きだからいいよ」


 だが、いつからだろう。

 小学生と中学生……そして高校と、次第に二人はすれ違い、一緒に過ごす時間が減って。気付けは自分ではない他の男が彼女の隣に立っていて、イコの一番側にいれるポジションは簡単に奪われてしまった。


 イコ、15歳。ユウ、10歳。

 その時初めて無断外泊をした彼女は、こっぴどく両親に怒られて、はたかれた頰を腫らしながら泣いていたのことを覚えている。


 その時ユウは、クリスマスプレゼントで貰った仕掛け絵本を持って、イコの家を訪れた。


「……イコちゃん、大丈夫? オジさんもオバさんも反応なかったから勝手に入ってきたんだけど」


 ドアをノックしても何にも返ってこなかった。仕方なくドアノブを回すと鍵も掛かってなく、すんなりと中を覗くことができた。


「イコちゃん……? どうしたの?」


 彼女は静まり返った部屋のベッドの隅で、両足を抱えて声を押し殺すように泣いていた。

 皆、どうしたんだろう? まるで葬式のように静まり返って、暗くて気持ちで滅入りそうだ。


「ねぇ、イコちゃんにもサンタさん来た? 僕はね、この仕掛け絵本をもらったんだよ。イコちゃんにも見せてあげる」


 ページを開くと立体的に絵が立ち上がる仕掛け絵本だ。本当はゲームが欲しいと強請ったのだが、世界中の子供の願いを叶えるサンタさんにも予算があるのだろうから貰えただけでも良しとして、ユウはプレゼントを披露した。


「バカだね、ユウは。まだサンタなんて信じてるの?」

「———イコちゃんは信じてないの? もしかしてイコちゃんのところには来なかったのかな?」


 それなら申し訳ないことをしたとユウは本を閉じたが、彼女は顔を埋めたまま黙り込んでいた。


「ねぇ、イコちゃん。何があったの? 僕でよければ相談にのるよ?」


 ユウの記憶の中にあるイコはいつも天真爛漫に笑っているから、こんな辛気臭い彼女は見たくないと率直に思った。彼女に相応しいのは、やっぱり笑顔だ。


「いいね、ユウは。アンタは誰かに嫌われたり捨てられたことがないでしょう?」


 イコちゃんは———誰かとケンカをしたのだろうか?

 それなら自分も経験がある。友達とのケンカは苦しいものだ。どっちが悪いとかではなく、普段と異なる状況ってだけで自分も回りも気まずくなるものだ。


 ユウは膝を立てて、ゆっくりとイコの頭を撫でた。優しく、優しく……大丈夫だと伝えるように。


「イコちゃんには僕がいるよ。大丈夫、何があっても僕はずっとイコちゃんの味方だよ?」

「そんなわけない。きっとユウも私を見捨ててどっかに行くんだよ!」


 よっぽど酷いケンカをしたのかな?

 だが、自分勝手な解釈で決めつけないでほしい。確かにユウはイコに比べると幼くて子供だけれども、ユウにもユウなりの決心をして言葉にしたのだ。


「僕がイコちゃんのことを守るよ。ずっとずっと支えてあげるから」


 それはもちろん上辺だけではなく、本当の意味で人生を添い遂げるつもりだった。そんなユウをイコは潤んだ目で見つめて、そのまま強く抱き締めた。



 ———後から知ったことだけど、この時のイコには年上の彼氏がいて、その人との子供を妊娠していたらしい。

 しかもその彼氏はイコ以外にも付き合っていた女性がいたらしく、ヤリ逃げされて連絡が取れなくなったとか。世の中には酷い人間がいるものだと幼いながらに呆れたものだ。


 16歳という若さで出産したイコは未婚の母になり、ご両親の協力を得ながら一人で子供を育てた。


 そしてそんな彼女をユウは側で支え続けて、大学を卒業すると同時にプロポーズをして結婚を果たした。


 ユウは22歳という若さで、11歳の娘が出来たのだ。


 そして月日は流れ……ユウ、27歳。イコ、32歳。シウ、16歳———……歪な三角関係で愛を奏でることとなった。





 ・・・・・・★


「え、歪? 失礼だな。僕らは至ってだよ?」


 お読み頂き、ありがとうございます。

 次の更新は12時05分と17時05分を予定しております。

 続きが気になる方は、ブックマークをよろしくお願いいたします。

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