第41話 ネコ【甘々糖分過多】
壱嵩side……★
飲み会の最中、誤ってお酒を飲んでしまった明日花さんだが、少ししか飲んでいないにも関わらず、すっかり酔っ払ってしまったようだ。
きっとリキュール入りのチョコでも酔っ払うタイプだなと思いながら、彼女の頬を撫でるように触れた。
トロンと潤んだ瞳に半開きの唇。時折ペロっと覗かせる舌が可愛くて、自制が効かなくなる。
この二の腕に絡みついた腕と胸が意図的でないなら、小悪魔にも程があるだろう。
自分の知らないところで酔い潰れて誰彼構わず甘えたらと想像をしただけで、息ができないような、心臓が締め付けられるような痛みを覚え、居ても立っても居られなくなった。
無理だ、切なすぎて微塵も考えたくもない。
過去はともかく、これから先は自分が一番彼女の傍にいたいと強く願った。
タクシーを降りて、眠りについた彼女を抱き上げて部屋に入ったが、無垢な子供のように寝息を立てる彼女は無防備で、本当に危なっかしい。
いくら信用されているとはいえ、こんな姿を見せられたら寝込みを襲いたくなる。
いや、彼女の美味しさを知っているからこそ味わいたくなるのだ。
「悪い人だな、明日花さんは」
とりあえずソファーに寝かせて、白い毛布を被せてからそっとしてあげた。
メイクだけでも落とした方がいいだろうか?
いや、もしかしたら直ぐに目を覚ますかもしれない。
一先ず自分だけでも先にシャワーを浴びようと、洗面所へと向かった。
「……しかし、今日は参ったな。あんなにイジられるとは思ってもいなかった」
楽しかったは楽しかったが、二人とも強烈な性格だったので全く太刀打ちができなかった。もし二人が付き合うようなことになって結婚でもしたら、一生イジられる羽目になるだろう。
そして久々に無邪気に笑う明日花さんを見て嬉しくなった反面、申し訳なく情けない気持ちが込み上がっていた。
明日花さんを振って捨てた男の元カノというだけで、危険人物のように決めつけていた自分が許せなかったのだ。
思い込みや先入観だけで否定するのはやめた方がいい。と言いつつ、今回たまたま良かった可能性も否定できない。
「難しいな……明日花さんに幸せになってもらいたいだけなのに」
シャワーを済ませて戻ると、寝惚け眼を擦る彼女の姿が見えた。ボーッとして、まだ眠たそうだ。
「おかえり、明日花さん。シャワー浴びる?」
「ふぇ……? あれ、壱嵩さん? おウチ?」
「うん、おウチ。タクシーに乗った後、明日花さんは寝ちゃったんだよ。って、覚えてないか」
冷蔵庫から缶ビールを取り出して、虚ろな目の彼女の隣に座った。カシュっと空けて飲む様子を見ながら、明日花さんは不思議そうに首を傾げていた。
「壱嵩さんはあまり酔っ払わないね。お酒強いの?」
「んー……別に強いわけじゃないけど、人並? 今日は明日花さんが一緒だったからセーブして飲んでたし」
おかげで飲み足りなくて、風呂上がりに飲んでいる始末だ。だが、昔と違ってビールくらいでは酔っ払わなくなってきたなとしみじみと感慨深く味わっていた。
「明日花さんは弱そうだから、飲みすぎないように気をつけないといけないね」
「——うん。気をつけるね」
ヘラぁっと笑って、そのまま首後ろ腕を回して抱きついてきた。急に甘えてきたと思ったら、今度は唇を重ねて吸い付くように舌を入れ込んで、濃厚な絡みを求めてきた。
「苦い……、ビールの味がする」
この子は、油断も隙もない。苦いと言いながらも何度も何度もキスを交わし合って、せっかく冷えていたビールもぬるくなってしまった。
これだけの時間、キスだけをずっと続けるのは初めてかもしれない。
「壱嵩さん、好き。大好き……。一生そばにいてね」
「ん、俺も。離したくない。明日花さんのことがずっとずっと大好きだよ」
気付いたらまた眠り始めた彼女に膝枕をして、俺もそのままソファーで目を瞑った。
あぁ、本当に……手放したくないな。
最近はあまりにも幸せなことが続き過ぎて、ひたすら目を背けていた事実をすっかり忘れていた。
「明日花さんに……会わせた方がいいのかな」
生涯一緒に過ごすのなら、避けては通れない道だろう。
もうすぐで彼女と出逢って一年になろうとしている。出逢った頃から気持ちも色褪せることもないし、むしろ愛しさは増すばかりだ。
本当だったら今直ぐにでも籍を入れたいくらいなのに、躊躇ってしまうのはあの人の存在が大きいのだろう。
「最低だな、俺は……。唯一の肉親に会わせることを恐がるなんて」
自分が思っていたよりも、弱い存在だった。
どんなに取り繕ったところで、変えられるはずなんてなかったのだ。
明日花さんの存在が自分の中で大きくなるにつれて、比例するようにらどんどん負が大きくなる。
———……★
中村「ちなみにビールがぬるくなるまでの時間は約40分らしいです」
壱嵩「——なに、その豆知識」
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