SS第二話 「幸山壱嵩」

 コンニチハ、中村青です。

 以前公開していたSSを再度公開します。

こちらはサポート限定で公開している分と同じ内容になるのでご了承下さいませ。




幸山こうやまくんってさ、言ってることは正しいんだけど、融通が効かなくて一緒にいると肩が凝るんだよね。少しは人の気持ちも考えて欲しいよ」


 そんな影口を聞いてしまった俺は、出るに出れずにその場に立ち竦んでしまった。


 確かに今までも「頭でっかち」「学級委員長」とか色んなあだ名をつけられてきたが、そんなに悪いことだろうか?


 正論のなにが悪いのだろう?

 俺は——良かれと思ってやっているだけなのに。



「なぁなぁ、壱嵩いちたか。お前ってまだ童貞だったよな?」


 ニヤニヤしながら聞いてきたのは、高校の時に色々とお世話になった瑛太えいた先輩だった。


 童貞だが、それが何か?


「お前に良いことを教えてやるよ。女の子はな、強引なエッチは痛いだけで感じにくいらしいんだよ。だからじっくりと焦らすように、たーっぷり前戯をした方がいいらしいぞ?」


 情報源はどこだ? 

 この先輩はいい人なのだけれども、少しいい加減なところがあるので油断ならない。


 いや、イケメンでモテるのだけれども……いい人なんだけれども。


「これをお前にやるよ。女性の為のセックスマニュアルだ。これからは男らしさよりも気遣いの時代だぞ」


 そう言って先輩は大量のAVと書籍を俺に託してきた。


「——いや、これって都合よく黒歴史を俺に託しただけじゃ⁉︎」


 たしか最近、彼女と同棲を始めると噂を耳にした気がする。隠し場所に困って俺に押し付けてきたな、あの野郎!


 だが、全く気にならないと言えば、嘘になる。

 モノに罪はない。俺は先輩の言葉を信じて勉強することにした。




「——そして、元カノにはネチネチセックスだと馬鹿にされて振られたんだよな。あの時は瑛太先輩をぶん殴りたいと思ったけど」


 だが幸い、相性がいい明日花さんとは良好な関係を築くことができた。それが瑛太先輩のアドバイスのおかげなのかは分からないが、とりあえず性の知識がついたことには感謝したい。


「確かに壱嵩さんって、融通が効かなくて頑固な性格がセックスにも出てるよね」

「え、え……?」


 まさかそんなふうに思われていたなんて。

 これは元カノと同じように愛想を尽かされるパターンなのだろうか?


「でも私、壱嵩さんの真っ直ぐなところに救われてるよ。私のことを思って色々してくれていることも分かるから嬉しいよ」


 散々バカにされ続けていた融通の効かない馬鹿正直な性格だが、やっと報われる時が来たようだ。


 分かってほしい人に分かってもらえればそれでいいんだ。


 これからも彼女の為に色んな知識を得て、手助けしていきたいと心底思った壱嵩であった。


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