第七章「それぞれの気持ち」

SS第一話 「鈴木明日花」

 コンニチハ、中村青です。

 以前公開していたSSを再度公開します。

こちらはサポート限定で公開している分と同じ内容になるのでご了承下さいませ。




 私、鈴木すずき明日花あすかは人付き合いが苦手だった。

 そもそも他人に興味がないのか、楽しく談笑をしている人を見ても何が楽しんだろうと少し冷めた目でみてしまう。


 そのくせ他人の目が気になるから普通を装って会話をしようと奮闘するものの、すぐにメッキが剥がれて苦労する羽目になるのだ。


「ストレスが半端ない……」


 人がうまくやれることが私にはとても苦痛。

 だからきっと、私は他の人よりも多くのストレスを抱えているに違いない。


 以前の私はそのストレスをセフレの康介こうすけと共に発散していたけれど、よくよく考えればそれも相当な負荷だった。

 だってあの男は、本当に自己中で自分の都合のいい時しか会ってくれなかったのだから。


「今は彼女がいるから無理」


 シたい時にできないセフレほど無価値なものはないだろう。


 押し寄せてくる空虚感に被りを振って誤魔化しながら、私はギュッと目を瞑った。


「大丈夫、大丈夫……きっと康介も分かってくれるはず」


 もう何年も想い続けている初恋の相手なのだ。

 康介だって私のことが嫌いならとっくの昔に縁を切っているはずだ。そうでないとこんな面倒な女をそばに置く理由がないと、当時の私は想い人康介のことを信じて待っていた。



 ——結局、その想いは届くことなく、虚しさだけが残ったのだけれども。


 それでも未来の私には素敵な日々が待っているのだから、人生って何があるか分からないとつくづく思う。


 セフレとの別れを決断してから数ヶ月後——私は今、とても幸せだ。

 人並みに困ったことや大変なこともあるけれど、以前ほど生きることが苦痛でなくなった。


 それも全部、彼のおかげだ。


 ベッドの上で小説の単行本を読んでいる彼の背中にもたれかかって、そのままギューっと抱き締めた。


「ん? 明日花さん、どうした?」

「何でもないよ。ただ甘えたかっただけ」


 そんなワガママも怒ることなく笑みを浮かべてくれる彼に、私は更に安堵を覚える。


「壱嵩さん、好き。大好き」


 そう、これは私と彼の幸運によって生まれたラブストーリー。泣きたくなるほど切ない、底辺を生きる人間達の恋愛小説だ。

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