第3話 父親の仕事

何ヶ月経っただろうか。

俺は、寝返りが打てるようになり、何度もしていると、腹ばいができるようになった。

バランスゲームのようで、楽しいと思い、俺の思考が赤ちゃんになってきていることを悟る。

俺は、ここ最近、ベビーベッドから降ろしてもらえるようになった。

キッチンと、俺の領域の間にはネットが貼ってあり、母親の料理姿は見えないが、いい匂いが漂ってきている。

だが、キッチン以外にはネットが貼られていなかった。

どこでも行き放題ということである。

いや、考えてみると、自由主義でも放任主義でも子供にキッチンだけは行かせない。

「グウウウウ」

あぁ、いい匂いには抗えないな。腹が減った。

料理がひと段落ついたと確信してから、俺は叫んだ。

ところで、トイレだが、ぶっ放して貰っている。1人でトイレに座れるほど首が座っていないのだ。

致し方ない犠牲さ。

ご飯を飲むと、眠気が襲ってくる。

ゲップを出してもらった後、俺は睡眠を取ることにした。

何時間眠ったのだろうか。

昼だったのが、もう夕方である。

窓から、淡い橙色が差し込んでいる。

西陽が眩しいな。

そう思いながら、横を見ると屈んでいる状態の父さんがいた。

父親は、こちらが起きたことに気づいたようだ。

父親に抱かれ、高い高いをされる。

一応喜んでおいてやるか。

「あいあい」

俺は、楽しそうな顔を作った。

父親は、仕事に行っているらしい。

役職についてはわからないが、早朝から家を出て、昼には帰ってくる。学校に似ている。

大学生なのだろうか…

これが夜だったら不倫の可能性はあるが、その心配はすぐに晴れた。

夜の営みが、毎日のように行われている。ギシギシとベッドが毎日軋んでおり、ベッドの方が心配になる。

俺が赤ちゃんだと云うことをいいことに、毎日だ。

だが、そのおかげで夫婦の仲は良好であることが判明した。

DVとかが行われていることは避けたい。

DVは子供からすれば見るに耐えないしな。

父親が仕事に行く時を、数回だけ見たことがある。剣を軽々しく持ち、その鞘を肩に取り付ける。

最も、剣士以外の何者でも無い。

日の丁度上がる時間、小鳥の囀ると共に家を出て、日が空の頂点に上がる頃に帰ってくる。

なんと云うか…不思議な仕事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る