10  Misanthrope


映画もアニメも漫画も好きだ。集中が続く時はネット小説も徹夜で読んだ。詩も好きだ。

親は苦手らしいが、俺はホラーとかスプラッターを自室でよく観ていた。

現実を考えなくていい、荒唐無稽な話ほど好きだ。

山田風太郎とか。手塚治虫の『空気の底』や『火の鳥』みたいな人類が全滅するSFとか。

人間嫌いの文豪が書く詩も大好きだった。春になるほど修羅に近付く心が、ガギガギザラザラの心が静まった。

そのせいで一度勘違いしたのもあるが、俺はただの人間嫌いであって、才能はまったくなかった。


芸大に行っていた頃、唯一よかったのは授業で知らない映画やアニメを見せてくれることだった。図書館でも見放題だし。

世界中の作品を網羅出来れば俺にも何か「傑作」が作れるんじゃないかと張り切ったが、俺の身体は疲れやすくて、才能もなくて、教員や学生との折り合いもつかなくて、すぐに癇癪を起して、課題でもそれ以外でも傑作なんて全く生み出せなかった。


人間の顔を覚えるのが苦手だ。文章をまとめるのが苦手だ。講評中の教室内全員の顔色を窺って心臓が暴れるのが苦手だ。授業に集中するのが苦手だ。ふらふら歩いてたら「生徒なのに先生みたい」と笑われるのが大嫌いだった。


好きなタイプの顔はあるが恋はできなかった。

俺の作品を好きだと言ってくれた娘もいたが、結局連絡は取ってない。

俺は俺が嫌いだからだ。


自分がどうしようもない差別主義者だってことは分かってる。

人間が嫌いだ。

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