第33話 Sideシリウス~初夜のお誘いじゃなかったようだ~


「シリウス様、一緒にお庭でティータイムでもいかがですか?」

「いや、結構だ」


「シリウス様、私、眠くなっちゃいましたぁ」

「寝てくればいい。自分の部屋で」


「シリウス様……。私、一人だと寂しくて眠れなくてぇ……。ほら、夜はいつも誰かしら買ってくれていたから……」

「そうか。ならばメイドに寝かしつけを頼んでおこう」


 つ・か・れ・る!!!!


 ただでさえここのところ内乱未遂の後処理やら、屋敷に帰ればメレの町やメレノス島の領主代理管理で忙しくてセレンとの時間が取れないというのに。

 他の女に構っている暇などない。

 いや、暇があってもそもそもセレン以外の女性に興味がない。


 隙あらば私にべたべたと触れたり、仕事を終えてようやく眠っているセレンの隣で眠れると思えばいつの間にかベッドに入り込もうとして来たり……。魔法使いの可能性が無ければ女性とはいえ切り捨てているところだ。


 今日は騎士団長が珍しく自分の仕事を終わらせ私の方を手伝ってくれたおかげで、久しぶりに早く屋敷に帰ることができた。

 ついにセレンとの時間を取ることができる。

 そうソワソワしながら帰ってみれば、彼女はなんとストローグ公爵家にいるというではないか。


 ストローグ公爵令嬢といえば、前々から私に付きまとい釣書を送り付け続け、セレンを害していた令嬢。

 心配になって乗り込もうとする私を、ポプリが止めた。


 曰く、私がメレノス島へ行っている時から、セレンはストローグ公爵令嬢と懇意にしているのだとか……。

 とても仲が良く、ストローグ侯爵令嬢には私がいない間セレンを支えてもらっていたと聞いた時には、目が飛び出しそうだった。


『私から見ても、セレンシア様とストローグ公爵令嬢様は、親友のような間柄に見えましたわ』

 そう目尻の皺をくしゃりとさせて言ったポプリに、私はそれを信じるしかなかった。


 そしてしばらく時間が経ってセレンを迎えに行くという御者を呼び止め「私も行く」と無理矢理馬車に乗り込んだのだ。

 一刻も早く、セレンに会いたかった。


 ストローグ公爵家に迎えに行って、私はポプリが言っていたことが真実だと、目で見て感じた。

 今までとは違う、ストローグ侯爵令嬢の眼差し。

 それに応えるセレンの信頼しきった表情。


 そう、それは本当に、親友、という言葉がよく似合うようだった。


「……」

 セレンに友達ができるのは嬉しいことなのに、何だかそれを素直に喜んでやれない自分に驚いた。

 何と身勝手な。


「はぁー……女性相手に嫉妬するとか……何をやってるんだ、私は」

 馬車での自分を思い出しては頭を抱える。

 それにしても、『誕生日の夜に私にシリウスをください』と言われた時には一瞬時が止まった。


 普段のセレンの思考から考えれば“そう”ではないことはわかりきったことなのに、自分の気持ちを信じて受け入れてくれるのかと錯覚してしまった。


 久しぶりにセレンを膝に乗せたその感覚が今も残る。


 セレンと二人で話をする──。

 時間がない、ではないんだ。

 時間は無理にでも作ればよかったんだ。

 目まぐるしい日々の中で、そんな当たり前のことすら忘れかけていた。


「セレン……」


 明後日が楽しみだ。

 久しぶりに二人でたくさん話をして、そして、一緒に眠りたい。

 緩んだ頬を撫でて、額にキスをしたい。


「さて、もう少し仕事を進めてから、可愛い寝顔を見て眠ろう」


 私は一度大きく伸びをして、再び執務机に向かった。

 明後日のセレンとの二人きりの時間を楽しみに。




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