第13話

「なんだ、僕とよりを戻しに来たのか? ふはは、仕方ない娘だな!」


「……?」


「いいだろう、寛大な僕だからな。再度、婚約を結んでやっても────」


「────何を言っているんですか?」


 アノス様が私の方に触れようとしてきたので、払いのけます。


「……え?」


 アノス様は何が起きたのか、さっぱりわかっていない様子。

 何でしょうか、私がまだアノス様の所持物だと思っていたのでしょうか。


 仮にそうだとすれば、なんと愚かなことでしょう。

 私の心は既にアノス様の元に無く、既に軽蔑しているというのに。


「何故私がもう一度、アノス様と婚約をしなければならないのですか?」


「え、え? だって……そのために僕のことが好きで、王城にやってきたんじゃないのか?」


「そんなわけ無いじゃないですか。勘違い甚だしいですね」


 実に不愉快です。

 楽しかった第二王子との時間も、全て終わりました。


 第二王子もやれやれと首を振っています。

 なるほど、実の兄弟であっても、理解できない存在だと言いたいのですね。


 私がラリスタのことを軽蔑しているように。

 第二王子もアノス様を軽蔑しているのでしょう。


「はぁ……。念のため言ってあげますと、婚約破棄をしたいと言い出したのはアノス様ですよ? 私ともう一度婚約を結びたいのであれば、寛大な心で許す前に、這いつくばって謝罪をするくらいしてもいいんじゃないですか?」


「え、え?」


「まぁ、私がアノス様ともう一度婚約を結ぶなんて、あり得ないんですけれどね」


「な、何故だ……?」


「わからないんですか?」


 呆れました。

 まだ愚鈍な妹に騙されているようですね。


「アノス様はあの愚鈍な妹に惹かれ、私を捨てましたよね?」


「ぐ、愚鈍……。実の妹をそんな風に言うのは、やめた方がいいぞ」


「事実ですもの。それで私を捨てたアノス様に、なんで私がついていかなくてはいけないんですか?」


「な、な……」


「ハッキリと言ってあげますわ」


 アノス様を睨み付けます。


「私はもう、アノス様のものではありませんの」


 ピシャリと、勘違い甚だしいアノス様に告げます。


「な、な……」


「昔からそうでしたよね。自己中心的な性格は変わりませんわよね」


「そ、そんな……」


「その性格、直した方がいいですよ」


「あ、あ」


「では、ごきげんよう。第二王子様、またお会いしましょう」


「うん、またね」


 第二王子はグッと親指を立ててきました。

 その仕草を見て、私は心が躍ります。

 ようやく勇気を振り絞り、自分の心に素直になれたと誇らしくなりました。


「ふふ……バカな人ですわね」


 こうして、私は王城から去りました。

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