第14話

【王子視点】


 先日、僕はリアラに拒絶された。

 一体何故なのか、理由はさっぱりわからない。


「リアラ……僕の何が気に食わなかったんだ……?」


 呟きは空に消える。

 かつて、リアラが僕に向ける視線とは、まるで違う視線だった。

 恋慕に満ちた鬱陶しいほどの熱意に満ちた視線とは違い、冷酷な呆れに似た視線。

 

 鈍感な僕でも嫌という程、理解できてしまった。

 理由はわからないが、リアラは僕のことを嫌っている。


「……ひょっとして、ラリスタに目移りしたからか……?」


 仮にそうだとすれば、まだリアラとりを戻すチャンスはある。

 僕は近日中に、ラリスタを捨てるつもりだからだ。


 ラリスタはリアラよりも、圧倒的にかわいらしい容姿をしている。

 だけど、それだけだ。


 食事は汚く、剣も振れない。

 根性もなく、嫌なことがあれば癇癪かんしゃくを起こし、脱走する。

 さらにクスリの売買や象牙の密売など、黒い噂も多い。 


 そう、認めたくないが僕は選択を間違えた。

 かわいいだけで、ラリスタは地雷だったのだ。

 容姿はダメだけど、黒い噂もなく、婚約者として教育を全うしてきたリアラの方が全然マシだ。


「それに、ラリスタの密売やクスリの売買の証拠は、既に掴んである。後はこれを父上に献上すれば、ラリスタと婚約破棄できて……リアラとりを戻せるだろう」


 ラリスタの黒い噂の証拠は、既に掴んでいる。

 これで婚約破棄できて、リアラと再度婚約が結べるハズだ。

 

 正直、自分からフった相手ともう一度婚約を結ぶなんて情けないが、ラリスタとこれから死ぬまで共に暮らすのはもう嫌なのだ。

 あの女は一週間に一度しか風呂に入らず、さらにことりの行水のように一瞬で風呂から上がってしまう。

 そのため、容姿は端麗なのだが、脂臭いのだ。


 歯を磨くことも嫌いなようで、こちらも一週間に一度。

 部屋の掃除も嫌いなようで、こちらも一週間に一度。

 口も臭く、部屋はゴミ屋敷そのもの。

 何とも残念で、けがらわしい女だ

 

「僕を誘惑したときは香水と魔術で誤魔化していたようだけど、バケの皮が剥がれたな」


 リアラに拒絶されたけれど、あれはどうせ一時的な物。

 本当はキミの方が好きだったんだ的な発言をすれば、きっと僕になびくだろう。

 女っていうのは単純で、バカな生き物なんだから。


「では、さっそく────」


 王の下へ向かおうとすると、僕の部屋に兵士がやってきた。


「王子! 大至急謁見の間にきてください!」


「……へ?」


 僕から行こうと思っていた矢先、何故か父に呼ばれてしまった。

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