第10話

「縁談ですか?」


 殿下から婚約破棄を命じられ、早一ヶ月。

 いつものようにのほほんとお茶を嗜んでいますと、父上が縁談を持ちかけてきました。


「お相手は……どちらの方ですか?」


「第二王子じゃ」


「……つまり、殿下の弟ですわね」


 私と婚約破棄を申し出てきたのは、第一王子。

 つまり、その弟が私に婚約を申し出てきたというわけです。


「……大丈夫ですか? 私、婚約破棄をされたんですよ?」


「その点も話したが、何の問題もないそうじゃ」


「……まぁ、一度話し合ってみなければ、何事もわかりませんからね」


 噂だけなら聞いたことがあります。

 第一王子は体力に自信のある、獅子の王子。

 第二王子は頭脳に自信のある、明晰な王子。


 実際にあったことはありませんが、第二王子の功績は素晴らしいと何度も聞きました。


 この国のトイレが水洗なのも。

 軍隊が他国に比べ、強力なのも。

 政治経済が進んでいるのも。

 全て、第二王子の頭脳があってのモノと。


「しかし、何故私となんですか?」


「どうも、第一王子と婚約時からリアラのことを愛していたらしい」


「……なるほど、そうなのですね」


 それは悪いことをしましたわね。

 私は片思いをしたことがないですけれど、つらいとよく聞きますからね。


「しかし、妹ではなく私に恋をするなんて……?」


 悔しいですけれど、私よりも妹の方が容姿が優れています。

 そのため、大体の殿方は私ではなく妹にアプローチをかけるのですけれど……。


「理由はわからんが、リアラにも再度婚約のチャンスが訪れてワシは嬉しいぞ」


「ええ。私も……嬉しい……です?」


「何故疑問系なのじゃ」


 自分の心に問いかけますが、本当に嬉しいのでしょうか?

 私の本心は……わかりません。

 

 このまま独り身で自由を謳歌するのも、一興です。

 殿方と付き合い、一緒に暮らす喜びと独り身で自由を謳歌する幸せ。

 どちらが優れているのでしょうか。


「リアラは……1人でも幸せか?」


「……そうですわね」


「確かにリアラは子どもの頃から、1人で遊んでいるときが多かったの」


「そうですの? 記憶にございませんわ」


「5歳ごろのことじゃからの。覚えていなくとも、不思議ではない」


「……私、子どもの頃から1人が好きでしたのね」


「ワシはリアラが結婚してもしなくても、どちらでもいいと思っておる」


「……お父様」


「リアラに幸せになってもらえれば、それで十分じゃ」


「……ありがとうございます」


 寛大なお父様に感謝です。


「まぁ、ともかく王子に会ってみればわかるじゃろう」


「そうですね……」


 一抹の不安を抱き、私は第二王子の元へと向かいました。

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