第9話

【王子視点】


 最近、ラリスタの言動に不信感を感じることが多くなってきている。


 例えば、婚約者になる直前にラリスタは貴族としてふさわしい、厳格な教育を受けてきたと語っていた。

 だが、食事や歩行を見る限り、ラリスタはまるで厳格な教育を受けていないようだ。


 食事の際、下品な方法で食し、父上や母上が眉をよく潜めている。

 歩行の際、廊下を走り回る姿が露見され、侍女や騎士がよく注意している。

 それも一度や二度ではなく、何度も。


 確かに、僕はラリスタの容姿に一目惚れした。

 公爵家の娘ではあるが、マナーを知らない場合は一から教えてもいいと思った。


 だが、確かに彼女は自分は厳格な家庭で育ったと語ったのだ。

 だからこそ、僕は何の教育も施さなかったのだが……。


「結局、虚言だったという訳か……」


 そう思うと、少し残念だ。

 

「思えば、彼女は少々虚言癖がある。昨日の剣術の訓練の際も、自身は全てこなせたと語っていたが、後ほど騎士団長に話を伺うと……途中で逃げたと語っていたな」


 容姿は満点なのだが、虚言癖と根性がないのが……最大の難点だ。


「虚言癖か。そういえば、彼女は”姉”にいじめられたと語っていたな」


 曰く、幼少期から酷いいじめを受けていたと。

 火の付いたまきで身体をかれたと。

 剣で浅く斬られたと。

 トイレの際、ガマンするように命じられ、最終的に漏らしてしまったと。

 

 だが、彼女の言動から察するに……それもウソなのだろうか。

 今思えば、リアラは性格のよい女だった。

 花を愛で、暴力を嫌う。

 そんな彼女がいじめを行うなんて……そんなことあるだろうか。


「……ラリスタには黒い噂もいくつかあったな」


 曰く、汚職を犯しているという噂だ。

 クスリの売買や密輸など、様々な重犯罪を犯しているという。


 そして、公爵家という立場を利用して、捕まらないようにしているという。


「根も葉もない噂……だとは思うが、一度調べてみるか」


 ラリスタに限って、そんな噂はありえない。

 と、言ってしまいたい……が。


「最近、僕は婚約者であるラリスタに不信感を抱いているからな」


 見た目はリアラよりも遥かに優れている。

 だが……それ以外に不信感が満載だ。


 リアラが婚約者だったときは、こんなめんどうなことをしなくても済んだ。

 彼女に不信感など微塵も抱いたことがない。


 絢爛で謙虚で……。

 良いところを上げると、キリがない。

 ラリスタよりも容姿が少し、劣っているくらいだ。


「……リアラ」


 ……少し、ほんの少しだけ後悔している。

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