第8話

【騎士団長視点】


「団長、どうでした?」


 ラリスタ様が立ち去った後、部下の騎士がやってきた。

 声色から察するに、俺を心配してのことだろう。


「噂通りの高飛車だったな」


「ラリスア様の叫び、こっちまで聞こえてきましたよ」


「何か甲高くて……ヒステリックすぎて好きじゃない感じでしたねぇ」


「それ、ここ以外で言うなよ」


「団長こそ、”高飛車”なんて絶対に外で言っちゃダメですよ?」


「……それもそうだな」


 ラリスタ様がリアラ様から婚約者の座を奪って、早数日。

 俺たちはいつも通り、リアラ様に行っていた内容と同じ訓練を積ませているのだが……。


「噂通り、根性がなかったですね」


「蝶よ花よと育てられたらしいからな。”根性”なんて概念も知らないのかもしれんな」


「だとすると、他の修行も耐えられないかも知れませんね」


「知らないのか? もうすでに根を上げているらしいぞ」


「え、本当ですか?」


「朝の華道は朝が弱いから起きられないと良い、剣術は今の通り途中で帰る。勉学は授業中に寝てしまい、夜の家事は手が濡れるのが嫌だからとワガママを言っているらしい」


「うわ、最低なクソ女じゃないですか……」


「おまけに婚約者になる前に、汚職に手を染めていたらしい。最近そのことについて、王が直々に調べているらしいぞ」


「えぇ……」


 部下はドン引きしているが、俺も同じ気持ちだ。

 

「そういえば、リアラ様がラリスタ様をいじめたから、婚約者の座を盗まれたって話ですよね?」


「そうだな」


「俺、正直……ウソだと思うんですよね」


「ああ。俺もそう思う」


「ですよね! あんなに優しいリアラ様が、実の妹をいじめるなんて……そんなのあり得ないですよね!!」


「リアラ様は被災地に募金をし、一輪の花をも愛でるような御方だ。人をいじめるなど、あり得ないだろうな」


「俺、ラリスタ様が偽りの発言をしていると思うんですよ」


「俺も同意見だ。ここ数日でラリスタ様の挙動を見てきたが、あれは……根が腐っているな」


「あの程度の訓練も続けられないなんて、それに俺たちを平民と呼んで見下すなんて……リアラ様なら絶対にあり得なかったですよ!!」


「リアラ様は俺たちも平等に扱ってくれ、常に俺たちに気を配ってくれたからな」


「俺、貴族様に感謝されたの……リアラ様が初めてです!」


「俺も同じだ」


 ため息を吐く。


「早くリアラ様に帰ってきてほしいものだ」


「……多分、もう帰ってこないですよね?」


「実の妹を軽蔑し、王子も今回の件で呆れられたという噂だからな」


 嘆かわしいことだ。


「さぁ、俺たちは訓練に戻るぞ!」


「はい! 万が一リアラ様が戻ってきた時、リアラ様に呆れられないように頑張ります!!」


 俺たちはラリスタ様に失望した表情で、訓練を続けた。

 

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