第6話

「この新刊、おもしろいですわね」


 図書室に籠もり、朝から本を読み漁ります。

 昔好きだった作家が最近新作を出したと聞きつけ、さっそく購入したのですが……これが想像以上におもしろかったのです。


「朝から新刊を読み漁るなんて、昔でしたら考えられませんわね」


 婚約者としての日々は、つらく厳しいものでした。

 朝から華道に始まり、昼は剣術と勉学。

 夜になると、料理や裁縫などの一般的な家事仕事。

 

 おかげさまで一通りの家事や教養は身につけましたけれど、自由な時間を失いました。

 ですので、婚約破棄された今、自由時間を利用して趣味に打ち込んでいるわけです。


「私が自由を満喫している間にも、ラリスタは婚約者としての教育を施されているのでしょうね」


 私でも根を上げそうになった婚約者の教育。

 ワガママで根性のないラリスタでは、到底耐えられないでしょうね。


 花など植えたことがなく、剣は握ったこともなくて学院の成績も悪い。

 料理や裁縫など、概念さえ知っているかもわかりませんからね。


「そう思うと、愉快ですわね」


 私から無理矢理王子を奪い、苦しむなんて……本当に愚かバカですね。

 自由の花園で育った女が、耐えられる場所ではないことくらい、少し考えたらわかることでしょうに。


「王子も無能な妹の美貌に目がくらみ、誤った判断をしてしまうなんて……この国の未来は暗いですね」


 もう妃にはならない私には、関係ないことですけれど。

 私はもう自由の身。

 帝王学を学ぶ必要もなく、領地の平和だけを第一に考えれば良いのですわ。


 そうです、私は自由なのです。

 朝から本を読み、昼にはお昼寝。

 夜には食後に少しだけダンス。

 そんな自由奔放な日々を、送ることが許されるのです。


 ラリスタが二度と得られない、自由な毎日を私は謳歌します。

 婚約者という鳥かごに縛られたラリスタが、羨むような日々を。


「どうか幸せになってください。あ、別に皮肉ではありませんよ?」


 こそっと図書室に響き渡る私の声。

 ラリスタには届いてるハズもありませんが。


「王子も……幸せになってほしいですね」


 愛したこともない、元婚約者様。

 王子様が私のことをどう思っていたかはわかりませんが、少なくともラリスタに目移りする程度ですので……所詮は、その程度の愛情しか抱いていなかったのでしょう。


 特に何も感じませんけれど、強いて感情を形容するならば……”呆れ”でしょうか。

 一国の王子ともあろうものが、一時の感情に振り回されて国を転落させるなんて。

 本当に、憐れで情けないですね。


「……不愉快なことは忘れましょう。今はただ、幸せな自由を満喫しましょう」


 新刊を手に取り、再度本を読みます。

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