第3話

 テーブルに座り、家族4人で食事を摂ります。

 父と母、私と妹。

 各々が座り、同じメニューを食べます。


 父と母、そして私はナイフとフォークを器用に使って礼儀正しく食事を。

 妹はグーでナイフとフォークを握りしめ、グチャグチャと音を立てながら汚らしく食事を。

 

「……」


「……」


「……」


「バクッ、グチャッ!」


 家族間に会話はありません。

 ですが、父と母は難しい表情。

 それは妹の食事だけではなく──── 


「そういえばお父様! 私、王子様と婚約したの!」


「……そうか」


「お姉様よりも綺麗で、性格も良いって言ってくれましたのよ!」


「……そうか」


 父は変わりなく、難しい表情。

 眉間に深い谷を形成して、眼球が疲れ果ててしまいそうです。


「お姉様が私をいじめなければ、きっと王子様もお姉様と婚約破棄をすることもなかったでしょうね!!」


「……」


「お父様? 聞いています?」


「……はぁ」


 父は深く、深くため息を吐きました。

 失望の、呆れた。

 そんな感情を想起させる、深いため息を。


「お父様……?」


「ああ。そうだな。お前はスゴいスゴい」


「でしょ!? 私ってスゴいんですの!!」


 我が妹ながら、ここまでくると情けないですわ。

 父の表情を見て、何も気づかないなんて。


 おそらく、父は気づいているのでしょう。

 ラリスタがウソを吐いていることに。

 私がラリスタをいじめたという事実などなく、愚かな王子がラリスタに騙されたということに。

 聡慧そうけいな父は、愚鈍な妹に騙されることなどありません。


 そして同時に、悔やみ嘆いているのでしょう。

 我が娘を甘やかしすぎて、ここまで愚かにしてしまったことを悔やみ。

 国を支える王子が、愚かなことに嘆いているのでしょう。


「お母様も! 王子と婚約を勝ち取った私を褒めてくださいまし!!」


「……ええ、スゴいわね。スゴいスゴい」


「でしょ!! お姉様よりも、私はスゴいんですの!」


 母も父と同じようです。

 語彙力の乏しい勝算を送り、バカな妹を適当にあしらっています。


 それよりも呆れるのは、我が妹。

 適当な勝算如きに喜び、歓喜の声を上げています。

 その様はまさしく滑稽で、キィキィと甲高く喚く様はまるでサルのよう。


「……はぁ」


「……はぁ」


「ふふんッ! 私ってスゴいんですのよ!」


「……滑稽ね」


 重く流れる食事の時間。

 皿の上のステーキも、冷めてマズくなってしまいました。


「……リアラ、後で私の部屋に来なさい」


 重い空気の中、父は私に声を掛けました。


「ええ。わかりました」


 一体、何でしょう。

 婚約破棄を叱るわけではないんでしょうけれど……。

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