第2話

「今日から……自由な身になれるんですね……!!」


 自室のイスに腰掛けて、腕を伸ばします。

 背骨の鳴る音が心地良くて、まるで祝福の音にさえ聞こえてきます。


「今思えば……王子は最悪でしたね」


 王子は体育会系の人でした。

 挨拶は無駄に大きくて、声さえ出せばいいと思っている愚か者。

 学院の成績はよかったみたいですけれど、頭が固くて融通の利かない性格。

 おまけに男が優れていて、女は愚鈍だと決めつける差別思考。


 今思えば、何から何まで私と合いませんでした。

 私は物静かな性格で、読書が好きです。

 声が大きな人は嫌いで、できるだけ静謐せいひつな日常を好みます。

 

「特に差別思考が……一番キツかったですね」


 私が少しでもミスをすれば、彼は「これだから女は」と罵ってきました。

 女の私がそんなにダメなのか、女がいなければ何もできないくせに。

 幼い頃は、何度も呪ったものです。


 そんな差別が十数年。

 17歳となった今では、何も感じなくなっていました。

 どんな差別的な意見も、聞き流せるようになりました。


 ですけれど、こうやって婚約破棄されて自由の身になった今。

 思い返してみると、沸々と王子に怒りが湧いてきます。


「ですけれどそんな侮辱も、もうおさらばですね」


 妹の性格だと婚約者としての生活は、数日で根を上げるでしょう。

 厳格な生活を強いられ、全ての所作が監視される日々。

 常識では考えられないほどの、男尊女卑の世界。


 蝶よ花よと育てられ、ワガママに育ったラリスタ。

 欲しい物はどんな手段を用いても、手に入れてきた悪女。

 そんな彼女が得た”婚約者”という立場が、彼女を苦しめるのです。


 おまけに、ラリスタは汚職を犯しています。

 彼女の罪は重くて、通常であれば既に死罪がくだされているほど。


 これまでは公爵家として罪を帳消しにしてきましたが、これからは少々事情が変わってきます。

 王子は頭が固いですけれど、正義感だけは無駄に強いです。

 ですので、きさきとなる女性が大罪人という事実を嫌うでしょう。

 そして単純な王子のことですから、ラリスタを法で裁くハズです。


 よくて終身刑、悪くて死刑。

 どちらにせよ、ラリスタの未来が暗いことは確実です。


「……いい気味ですね」


 私の一番側にいたのに、婚約者の苦しみが一切理解できなかったなんて。

 本当に……バカな妹です。


「お嬢様、お食事の時間です」


 妹に呆れていると、侍女の呼ぶ声が。

 

「ええ。今行きますわ」


 イスから立ち上がり、私は1階へと向かいました。

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