◆第一章④

「情報を死者から引き出したい。死人に口なしで重要な事実もやみほうむられるが、その力があれば暴くことも可能だ」

「力を貸りる代わりにもくにんするということですか」

「理解が早いな」

 青流は満足げにうなずいた。ほこっているようにも見えて腹がたってきた。

「俺が噂どおりの葬送師だなんて言ってない。そうだとしても、じゆつでも使って魂がよみがえったように見せかけてだまして稼いでるかもしれないだろ」

「昔、有能な葬送師がいた。魂を呼ぶその力を貴族たちも欲しがった。男の名はようたいげん。お前の父親だろう、葉卓明」

 他人の口から初めて聞く、父親の名前。

 びようしようで母親が打ち明けてくれた。くなった父親の能力のこと、それによるごとが原因で別れたこと。だから、気をつけるようにと。父親の「葉」ではなく母親のせい、周卓明と表向き名乗っているのは能力をねらわれないためだと、そのとき知った。

「もちろんほうしゆうはらう。悪い話ではないだろう」

 父親の名を知られているのなら、もうかくし通せそうにない。

「金が欲しくてやってるわけじゃない」

「正義か。さっきも見知らぬ女を助けていたな。ならばなおのこと良い話のはずだ」

 首を横にる。

「正義なんかじゃない。俺は──」

 言いかけて、言葉を飲み込む。

 知らない男に話すことではない。

 青流はこちらをじっと見ていたが、意を決したように立ち上がった。背中を向け、ゆっくり息をく。

「これは御史としての依頼ではない。私個人がお前を必要としている」

 こちらを向き、やや低めの落ち着いた声で続けた。

「人をさがしている。私の力をもってしても情報を拾えない。これがどういうことかわかるか」

 強固に守られている秘密。

 それを隠せる者がいる。

 大きな力を使って。

 同じだ。

 人を捜している。

 だけど自分一人では限界がある。この力を使うことでおびせられたらと考えているが、今のところかりはない。高い身分の者には近づく方法がないから、接する対象が限られてしまう。

 使えるか。

 この男の力を。

 時間は永遠ではない。魂を呼び戻す術を使い始めてもうすぐ二年。まだ何の情報もつかめない。こうしている間にも葬られた事実は消えていく。

 手を打たなければ。

 完全に消えてしまう前に。

「俺も、人を捜している」

 父親はなぜ、どのように死んだのか。

 調べてもわからないということは、隠されているのだ。

 知っている人から真実を聞きたい。

 青流の表情が変わった。目を見開いてから、理解したという顔。そして、同志を見つけたかのような喜び。

ぐうだな。捜しているものは異なるがそうほうとも目的は人捜しだ」

「条件がある。俺を調べたならわかるだろうけど、この力のことが安易に広まれば父と同様に危険な目にうかもしれない。力を貸すということは命を預けるに等しい。対等な相手にしか預けられない」

 強い視線で真っすぐ見る。

 青流は笑みを深くした。

「私と対等とは、よく言えるな」

 李一族の男と、身寄りのない平民。その気になればこの場で卓明の首をはね、適当な罪をなすりつけて葬ることも可能だろう。本来ならこんなところで目線を合わせて語れる相手ではない。

「実際、俺の代わりはいないんだろ? 俺が断って困るのはそっちでは」

 同じ技を使える人間がいると聞いたことはない。

 自分のほかにはいない。

「そうだな。こう見えてわらにもすがる思いなんだ」

 青流はしようした。たくさんの者をへいふくさせてきただろうに、高圧的ではない。貴族がえらそうに振るうのはげんを保つためだろうが、本当に気高い人間は、あからさまに力で押さえつけたりはしないのかもしれない。

 しんらいできるだろうか。

 いや、信頼しきれなくても、同じふねに乗るのなら協力しなければならない。

 手を差し出してきた。

「改めてお願いする。その力を貸してほしい。私の命も預けよう。私がお前の裏の仕事を黙認するのではなく、たがいに口外しない。それでどうだ」

 青流が何を捜しているかはわからないが、大きな力が立ちはだかっているのなら、暴くのは危険かもしれない。

 命の預け合いだ。

 立ち上がり、差し出された手にこたえるように手を軽く合わせた。

「よろしく」

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