◆第一章③

 青流は卓明に視線を移した。

「あなたでしたか。聞きたいことがあるのだが、いいだろうか」

 外には男が二人いる。護衛だろう。

「どうぞこちらへ」

 卓を挟んだ向かい側の席を手で示す。青流は外に立つ護衛と視線を合わせてから扉を閉めた。

「お茶をお持ちしますね」

 蘭蘭の言葉に首を横に振る。

「いえ、お構いなく。少し込み入った話があるので、申し訳ないがしばらく席を外していただけるだろうか」

「わかりました」

 うなずいて、蘭蘭はすぐに隣室へと姿を消した。ただならぬ話だと察したのだろう。そもそもここは高貴な人間が来る場所ではない。けいちようじも、貴族は一族で受けがれたやり方で、しみなく金をつかう。

 青流が両手を胸の前で重ね頭を下げたので、卓明も同様に礼をした。

 着席する。目の前にもくしゆうれいな顔がある。育ちの良さがにじみ出たはなやかな容姿だ。日常で関わる種類の男ではないので、どことなく落ち着かない。

しゆう卓明、職業はそうそう師。ちがいないだろうか」

「はい」

 そうには複雑なしきたりがある。大陸で古くから伝わっているもので、平民の多くはそれに従う。

「遺族たちに代わり、さまざまな手配をし、場を整える。葬儀は他国と大差ないが、葬送師という職は我が国独自のものだ」

 卓明はうなずいた。

 都からはなれた村では村民総出で葬儀をり行うが、首都・洛林は周囲との関係がはくな人も少なくない。葬儀の準備だけではなく、まいそう後も数ヶ月、数年後とれいがあり、ぼうな商人や農民には手間になるし、下手へたすれば忘れてしまう。最初に葬送師にたのんでおけば最後までとどこおりなく行える。

 国内にはいくつかの葬送屋があり、ここはそのひとつだ。

 青流は静かな口調で話し続ける。

「死者のたましいもどすためのしきを行い、戻らなければ完全に死んだとみなしてひつぎに納め、埋葬する。魂を呼ぶと言ってもあくまでも形式的で、万が一のせいのために、すぐには棺に入れず時間かせぎをするものだろう」

 そのとおりだ。

 もっとも遺族にとっては信じたいところだろう。魂が戻ってくるかもしれないと。目の前の男は、親しい人との死別を経験していないのか、現実的な考えなのか。

「ただ、本当に魂を呼び戻せる者もいる、とうわさに聞いた」

「……噂、ですか」

もうおくれたが、私はぎよ。噂と言ってもたわむれの作り話ではない」

 卓明は思わず息をんだ。

 御史とはかんに不正がないか探り、しんする役職だ。彼らの判断が出世に関わるから、多くの官吏におそれられている。

 じようほうもうは強固で確かだろう。

「卓明という葬送師に頼むと魂を呼び戻してもらえる。そんな噂が密かにある。師長は知っているのか?」

 本当か? とは聞かなかった。

 確信しているのだ。

 依頼者には口止めしているが、完全にふうじてしまえば依頼は来なくなる。噂の広め具合は難しい。いつか師長に知られてしまうかもとは思っていたが。

「そうだとしたらばつせられるのでしょうか」

 ほうではなくても、先日の件のように裁きがくつがえったりすれば、じやだと感じる人もいるだろう。社会的に消されたくなければ二度と使うなと言われれば、従うしかない。この国では法と同じぐらい強いものがある。政権をにぎっている三氏。李、だん。李青流は李一族の者だろう。

「その力を私に貸してくれないか」

「力を、貸す?」

 数度まばたきをする。

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