第16話

【ノエラ視点】


 あれから1週間後、ついにこの日がやってきてしまいました。


「お前ら、出ろ」

 

「……」


「……」


 兵士に促され、手枷を着けたまま牢から出されます。

 私もシエル様も、何一つ言葉は発しません。

 この1週間で互いのことは罵りつくし、もう疲れてしまったのです。

 こんな暗い場所で互いのことを罵りあっても、何一つ生まないことに気付いてしまったのです。


「歩け」


「……」


「……」


 一歩一歩、歩を進めます。

 ……一歩一歩が重く、そしてツラいです。

 この一歩が死に向かっていて、歩みを進めるごとに処刑への時間が近くなると思うと……怖くて怖くて。

 できることなら泣き叫んで、ここから逃亡してしまいたいですが……そんな元気もなくなってしまいました。


「……」


 歩みを進めること、約数分。

 わたしたちは、処刑台へと着いてしまいました。


「死ね!!」


「早く殺せ!!」


「見ものだぜ!! 公爵家と第一王子が死ぬんだからな!!」


「私腹を肥やしたんだ!! さっさと殺せ!!」


 処刑台から見える景色は、散々なものでした。

 民がわたしたちを罵り、処刑を望んでいます。

 わたしたちは彼らには何もしていないのですが、わたしたちのことを彼らは嫌っているようです。


 普通だったら、ここで反論の1つもしているでしょう。

 ですけれど今は、ただただ疲れました。

 もうここで死ぬのですから、あんな群衆に反論することでエネルギーは使いたくありません。


「座れ」


「……」


「……」


 処刑台に座ります。

 石の床は冷たく、突き刺すようです。


「最後に言い残すことはあるか?」


 兵士はわたしたちに、問いかけてきます。

 言い残すこと……、そう考えるとありませんね。

 お姉様を筆頭とした人たちに、言いたいことは山ほどありますが……この場にはいません。

 だったら──


「……ノエラ」


「……どうしました?」


 様々なことを考えていると、シエル王子が話しかけてきました。

 なんでしょうか、この場で……最期の告白でしょうか!!


「……お前のことは、大嫌いだ」


「……えぇ、わたしもです」


 ……そうですね、そうです。

 シエル王子は元々、そういう人です。

 わたしが婚約を決めたのも、王妃になる為だけです。

 シエル王子の人柄や容姿は、最初からどうでもいいことでした。

 彼のことは最初から、好きではなかったのです。


「済んだな。では──」


 刃が振り下ろされます。

 あぁ、わたし……本当に死ぬのですね。

 なんて……短い人生だったのでしょうか。後悔しかありません。


「あ」


 人生に後悔をしていると、群衆の中にお姉様を発見しました。

 こちらを嘲笑するような、そんな表情を浮かべる──


「あ」


 最期の最期に嫌な思いをして、わたしの首は断たれました。

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