第11話

【エルス視点】


「おいエルス、なんのつもりだ?」


「兄さんこそ、なんのつもりかな? カミネさんは僕のものだよ?」


「……は?」


 我が兄ながら、マヌケだな。

 ポカーンと口を開け、理解力の足りていないアホ面を曝け出している。


「はぁ、バカに付き合ってられねぇな。いくぞ、カミラ」


 兄さんがカミネさんの手を掴もうとするので、僕はそれを制止した。


「……テメェ、さっきからなんのつもりだ?」


「兄さんこそ、どういうつもりなのかな? 僕の婚約者に対して、乱暴に扱わないでほしいんだけど」


「……婚約者?」


「あぁ、僕たちは婚約関係を結んだんだ」


 僕はニコッと、カミネさんに微笑みかける。


「は、は……? あ、ありえねェ!!」


「兄さんもこんなところで油を売っていないで、早くノエラさんの元に帰ったら?」


「の、ノエラだと……? な、なんでだ……?」


「なんでって、兄さんの婚約者だからだよ。寂しがっていると思うよ?」


 兄さんはバツが悪そうな顔をしている。

 兄さんが婚約者とうまくいっていないことは、すでに知っている。

 そしてそれを、表に出しづらいことも。如何に第一王子といえども、二度も婚約破棄をしてしまえば評判が下がってしまうからね。


「だ、だけど、ソイツは俺のものだ!! 俺の所有物なんだ!!」


「らしいですけれど、そうなのですか?」


 ニコッとカミネさんに微笑んで、そう質問します。


「……違います」


 そしてカミラさんは、ピシャっと言い切りました。


「私は1人の人間ですので、物ではありません。それに既にシエル王子とは婚約破棄をしていますので、シエル王子の女でもありません」


「な、な……生意気だぞ!!」


「どうぞ罵ってください。さぁ、殴ってもいいですよ? まぁ、無関係の国民を殴ったと知られれば、シエル王子の評判はガタ落ちでしょうけどね」


「て、テメェ……!!」


 兄さんは拳を握り締め、大きく振りかぶります。

 危ない! と、僕が兄さんを制止しようとした、その時です──


「シエル」


 兄さんを呼ぶ声が、聞こえてきました。

 それは聞き馴染みがあるものの、尊大でどこか恐ろしい声でした。

 振り返ると、そこにいたのは──


「……父上」


 僕らの父、ノルティ王がそこにはいました。


「……シエル、そしてエルスとカルネよ。後で謁見のまに来なさい」


 とだ言い残し、父上は去って行きました。


「……ちッ」


 少しの沈黙ののち、兄さんは拳を収めてどこかに消えました。


「……な、何の話なのでしょうか?」


「……おそらくだけど、カルネにとって良い知らせだと思うよ」


 と、僕はカルネに微笑みかけました。

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