第10話

「どうだい、おいしい?」


「え、えぇ。とても」


 本日、私とエルス王子は王城の中庭でお茶を嗜んでいました。

 さすがは王族といったところでしょうか、出されたお茶はとても美味です。

 おそらくですがコルス帝国から輸入された、新種の茶葉を使用しているのでしょう。匂いがとても良くて、落ち着きます。


 ……いえ、嘘です。落ち着きません。

 お茶にはリラックスさせる効果があるのでしょうが、状況がリラックスには程遠いです。

 婚約を求めてくる、美青年が目の前にいるのですから。ただの美青年ならともかく、幻想的な現実離れした美しさを誇る美青年なのですから!!

 こんな状況でリラックスできる女性など、存在しないでしょう。

 

「それで、どうかな?」


 この問いかけがお茶の味に関するものではなく、婚約に関するものであることはさすがに理解できます。


「……エルス王子、その……」


「うん、ゆっくりで構わないよ」


「……私、エルス王子と婚約しようと思います」


 一晩じっくりと考えて、出した結論です。

 エルス王子はシエル王子とは違って……なんというか、信用できます。

 出会った時間は短いですけれど、少し話しただけでそう感じました。

 シエル王子のように乱暴をすることはなく、女性の見る目がないということもなさそうです。


 そして何よりも……見た目がいいです。

 特に顔がいいです。直球でタイプです。

 もちろん容姿だけで婚約を承諾した訳ではありません。

 ですが……やはり容姿は大事です。毎日彼の顔を見ることになるのですから。

 彼ほど優れた容姿は、目の保養になります。どれだけ婚約者生活がしんどくとも、エルス王子の顔を見るだけで救われるのですから。


「そうか……ふふ、ありがとう」


「今後とも、よろしくお願いします」


「あぁ、こちらこそ。必ず幸せにしてみせるよ」


 ニッコリと微笑むエルス王子。

 あぁ、これです!! シエル王子にはなかったものは!!

 見ているだけでホワホワと昇天しそうになる、不思議な笑み。

 やっぱり顔がいいと、気分がいいですね!! 最高です!!


「お、おい!!」


 と、エルス王子の容姿に見惚れていると、不愉快な怒号が中庭に響いてきました。

 聞き覚えのある、恐怖に溢れた声。私を嬲り、殴った声。

 その声を聞くだけで、自然と背筋が凍ります。身体が強張ります。


「……シエル王子」


「テメェら何してんだよ!!」


 声の主──シエル王子はズカズカとこちらに向かって、歩んできます。

 ……あぁ、せっかくの楽しいお茶会がこれにて閉会ですね。

 私は彼に乱暴に連れて行かれ、暴力を振るわれるのでしょう。


「カルネ、大丈夫だよ」


「え……?」


「僕が必ず、守ってあげるから」


 そういってエルス王子は、私の手をギュッと握ってくれました。

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