第9話

「え、こ、こ、婚約ですか!?」


 あまりにも予想外な発言に、動揺を隠せません。

 いえ、知っていましたよ。今回呼び出された理由が、私への婚約を求めるものだということは。

 ですが……普通は大義名分だと思うじゃないですか。そう言った理由で私を呼び出して、罵ったり嘲笑したりするんだと思うわけじゃないですか。

 だって私、傷物令嬢ですよ? 婚約破棄されたような、醜女ですよ?


「それで、どうかな?」


「え、あ、えっと……」


「あぁ、ごめんね。結論を急かしすぎたね」


「あ、い、いえ、そうではなく……」


 ここでふと、1つの答えに辿り着きます。

 多分ですが、エルス王子は私が婚約破棄されたことを知らないのでしょう。

 私がシエル王子と婚約していた頃、たった1度しかエルス王子のことは拝見したことがありません。

 ただ2人のスケジュールが合わず、たまたま出会うことがなかった……と考えるのはあまりにも不自然です。

 2人の仲が悪く、意図的に出会わなかったと考える方が自然です。

 

 2人の仲が悪いのであれば、私が婚約破棄をされたことをエルス王子が知らないことにも納得がいきます。

 ……自分から伝えるのは辛いですが、仕方ありませんね。


「エルス王子……実は私、以前に婚約破棄を受けているのです」


「知っているよ。僕の兄は本当に……愚かだね」


「え、知っているのですか? だったら、なんで……私なんかを選ぶのですか?」


「私『なんか』なんて卑下しないでくれ。君は誰よりも……この世界の誰よりも、美しいんだから」


「美しい……? 妹の方が綺麗ですよ?」


「君は気づいていないけれど、婚約者としての成果は非常に過酷なんだ。並みの人間では、ほんの数時間程度で根を上げるだろう」


「え、ま、まぁ……確かにしんどいものではありましたけれど、それは盛りすぎなのではないですか?」


「事実、君の妹は婚約者としての教育から幾度か脱走している」


「それは……申し訳ありません」


「君が謝ることじゃないよ」


 なんというか……本当に愚かな妹です。

 穴があったら、入りたい!! いえ、埋めたいほどに恥ずかしいです。


「君はそんな婚約者としての訓練を、根を上げずにやり遂げた。そんな精神力が、僕は美しいと思ったんだ。君のような女性と一緒に、生涯を過ごしたいと思ったんだ」


「て、照れますね」


「で、どうかな。僕の婚約は、受け入れてくれる?」


「す、少し……考えさせてください」


「あぁ、もちろんだ」


 この場で結論を出すには、あまりにも早急です。

 人生を揺るがすような、大切なことなのですから。


「そうだね、君も疲れただろう。今回はここいらで解散としようか」


「え、あ、は、はい。わかりました」


「それじゃあ、また会おうね」


 かくして、私は実家へと戻りました。

 ……まさか本当に、婚約を求めるものだったとは。

 私は帰りの馬車の中で、ずっと返事について考えていました。


「……どうしましょう」

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