第8話

「それにしても、懐かしいね。君との思い出は5歳の時だけど、まるで昨日のことのように思い出せるよ!!」


「あ、あはは……恐縮です」


 緊張します。

 彼の容姿が良すぎて、緊張します。

 想定していた展開とは違って、緊張します。

 彼の思惑が理解できなくて、緊張します。


 一体私はなぜ、この空間にいるのでしょうか。

 もちろん、第二王子のエルス王子に呼ばれたからなのですが。

 しかし……私はなぜ、呼ばれたのでしょうか。

 今の所エルス王子は私のことを嘲笑することも、蔑むこともしません。

 ただただ、かつてのことを思い返し、思い出話に花を咲かせているだけです。


 あまりにもそれが理解できずに、困惑してしまいます。

 いっそのこと私のことを、笑い飛ばしてほしいです。

 指を刺し、馬鹿にしてほしいです。愚かだと罵ってほしいです。

 そうすれば心を殺して、いつもの営業対応で接することができるのですが。

 エルス王子の謎の対応は、それを許しません。


「……カミラ、楽しくない?」


「え、あ、い、いえ!! そんなことないですよ!!」


「……なら、何か悩みでもある? カミラはなんか……心から楽しんでいなさそうだ」


「も、申し訳ありません!! ……そうですね殿下、1つだけ気がかりなことがあります」


 ここは失礼を承知で、聞いてみましょう。

 ずっとここで談笑をしても、モヤモヤが強くなるだけです。

 それを解消するには、殿下に触接聞くしかありません。


「どうしたんだい? 僕に答えられることなら、どんなことでも答えるよ!!」


「その……殿下、失礼を承知で聞きますが……なぜ、私を呼び出したのですか?」


「……あれ? 手紙には書いていなかった?」


「い、いえ……熱心なラブコールが記載されていました。婚約を求める誠文が、記載されていました」


「なんだ、伝わっているじゃないか」


「……?」


 伝わっている? 

 それは……高度な皮肉なのでしょうか?

 言葉の裏の意味も読み解けない醜女だと、馬鹿にしているのでしょうか。


「あ、でもそうだよね。言葉にした方がいいよね。文字だけじゃ、愛を伝えきれないよね」


「……?」


 さっぱり理解できないまま、エルス殿下は椅子に座り直します。

 な、なんでしょう。何のつもりなのでしょうか。


「……カミラ、話があるんだ」


「は、はい」


 ゴクリと、固唾を飲みます。

 鼓動がさらに高鳴り、汗が噴き出ます。

 緊張が止まりません。


「僕と……婚約してください」


「え、あ、はい。って、えぇえええええええ!!」


 私は二つ返事で返事をして、部屋中に轟くような悲鳴をあげてしまいました。

 ……淑女としてあるまじき行いですが、多めに見てください。

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