第7話

「ハァ……ついにやってきてしまいましたね」


 とうとう、この日がやってきてしまいました。

 第二王子と出会うために、王城の第二王子の部屋の前にやってきたのです。

 王族の方と出会うのですから、久しぶりに早朝4時に起きてバッチリとメイクを施しました。

 ドレスも一番高価で豪華なものを厳選しました。


 ここまで準備をしても……この扉を開けば、全ては無に帰すのでしょう。

 「本当にやってきた」と嗤われ、「準備万端で痛々しい。お前に本気で婚約を求めるハズがないだろう」と嘲笑れるのでしょう。


 そんなことをされても、怒ってはいけません。

 ニコッと笑い、もうしわけないと謝らなければならないのです。

 ……立場が下の貴族は、これだからしんどいのです。

 こんなことなら、自由な平民に生まれるべきでした。


「…………失礼します」


 重い気持ちのまま、扉を開きます。

 木でできたそれは、重量はあまりないのにヤケに重く感じてしまいます。


「やぁ、待っていたよ」


 扉の向こうにいたのは、銀髪の美青年。

 瞳は湖のような碧眼。肌は白く、まるで透き通るよう。

 あまりにも幻想的で、現実離れした見た目。

 だからでしょう、私は数秒ほど見惚れてしまいました。


「カミラ、大丈夫?」


「え、あ。も、申し訳ありません!!」


 王家の人の前で、なんという醜態でしょう。

 婚約者として長年鍛え上げてきた対人スキルが、彼を目の前にした瞬間に一つも作用しなかったです。

 あぁ、情けない。穴があったら入りたい!!


 それにしても、こちらの方はどなたなのでしょうか。

 第二王子……ではないでしょう。シエル殿下や国王陛下と容姿が、あまりにもかけ離れています。

 とすると……第二王子の側近の方なのでしょうか。

 服装がやけに豪華なのですが、おそらくは第二王子の趣味なのでしょう。

 こんなに美しい人なのですから、普通の燕尾服を着せるのは勿体無いですからね。


「あ、あの……大変不躾な質問なのですが、第二王子はいったい何処におられるのでしょうか……?」


「あはは、おもしろい冗談だね」


「……?」


 何故でしょう、笑っている意味がわかりません。

 しかし……彼ほどの美青年が笑うと、本当に絵になりますね。

 私は女ですけれど、彼のような顔に生まれたかったです。


「目の前にいるじゃないか」


「目の前……? ……え、まさか」


「久しぶりカミラ、僕のこと覚えている?」


 そんな、だって……そんな!!

 少なくとも5歳の時に出会った時は、漆黒の髪色をしていたはずです!!

 だからそんなことは……ありえません!!


 ですけれど、やけに納得できます。

 従者にしては、整いすぎた容姿。

 側近にしては、豪華な衣服。

 そして何より……気品あふれる態度。


 彼の全てが、私を納得させます。

 ですが……信じられません。

 本能は信じているのですが、理性が拒んでいます!!


「……エルス殿下……ですか?」


「うん。覚えていてくれて、嬉しいよ」


 と、目の前の美青年──エルス殿下は微笑みました。

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