第6話

「え、私と婚約を結びたい殿方がいるのですか?」


 侍女が私に持ちかけてきたのは、とても信じられないような内容でした。

 一度婚約破棄をされた傷物令嬢の私と、新たに婚約を結びたいなんて……。


「……その話、本当ですか? 騙されていません?」


「お嬢様、信じてください。お送り先を確認してください」


 侍女が手紙を見せてきます。

 それを確認すると──


「…………え」


 思わず、固まってしまいました。

 まさか、そんな。

 とてもじゃないですけれど、自分の目を信じることができません。


「…………どうして、第二王子から婚約を求められているんですか」


 私がシエル王子の婚約者だった頃、一度だけ第二王子と出会ったことがあります。

 それは私が5歳の頃ですので、今となってはほとんど記憶がありません。

 それ以降、第二王子とは一切出会っていないのですが……。


 それに手紙の内容は、熱いラブコールでした。

 彼との接点なんて、5歳の時にほんの5分ほど出会っただけだというのにです。


「どうして…………このタイミングで婚約を言い渡してきたんですか…………?」


 第二王子の考えが、さっぱりわかりません。

 これまで一切出会ってこなかったのに、5歳以降は存在さえも忘れていたほどなのに。

 

 ……少し、いえかなり、悪い考えが脳裏をよぎります。

 これは……騙されているのではないでしょうか。

 婚約破棄を言い渡された傷物令嬢である私のことを、からかっているだけなのではないでしょうか。

 そう考えると、全ての辻褄が合います。


「お嬢様、どうさないますか」


「本当は破ってしまいたいんですけれど……それはあまりにも不敬ですわよね」


 貴族とはいえ、流石に王族の権力には敵いませんわ。

 ただでさえ傷物令嬢なのに、ここで手紙を破り去ってしまえば私の評判は地に落ちるでしょう。

 人の評価なんてどうだっていい……と、言えるほど私は強くありませんから。


「会うしか……ないですね」


 出会った瞬間、嘲笑されると思いますけれど。

 傷物令嬢だと、笑われると思いますけれど。

 正直……足を運ぶこと自体、無駄だとは思いますけれど。


 だけど、無碍にするわけにはいきませんから。

 私はノエラとは違って、良識がありますからね。

 ノエラなら手紙を破り捨てて、ヒステリックに叫ぶのでしょうけれど。

 良識のある私は、そんなことはしません。


「ハァ……気が重いですね」


 肩をガックリと落として、私は第二王子と出会う準備に取り掛かりました。

 ……本当に、トラブルは立て続けに起こるものですね。

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