第3話

 

 本を読んでいると、あっという間に時間が過ぎます。

 現在時刻は19時。晩御飯の時間です。


「今日の晩御飯はおいしそうですね、お父様!」


 机の上に並べられた、ごちそうの数々。

 いい匂いが部屋を充満し、空腹を刺激します。


「あ、あぁ、そうだな」


「……」


 お父様、私、そしてノエラ。

 お母様は今出張中ですので、本日は3人での晩御飯です。


「それでは主に感謝して、いただきます! ……おいしいです!!」


「そ、そうか。それはよかった」


「……」


 コーンスープを飲んで、その味の美味さに驚きます。

 婚約者時代はそのストレスから、舌の感覚がマヒしていました。

 それが解けた今、こんなにもご飯がおいしいものだなんて……知りませんでした!!


「……」


「……」


 私が食事の素晴らしさに歓喜している中、お父様とノエラは沈んだ表情です。

 まぁ、2人の気持ちはわかります。

 長女が婚約破棄され、次女が婚約したという異例の無い事態が起きて困惑しているお父様。

 婚約者としての1日を過ごし、疲弊しているノエラ。

 お父様は私たちにどう話しかければいいか、困っているのでしょうね。

 ノエラは単純に、会話をする元気がないのでしょう。


「お父様、事後報告で申し訳ないのですが私、婚約破棄をされました」


「あ、あぁ……き、聞いているよ。その……大丈夫か?」


「えぇ、私は元気そのものですわ!!」


「そ、そうか。それはよかった……」


「新たな婚約者はノエラになります。よかったですわね、ノエラ!」


「……」


 相変わらず俯いたまま、コーンスープを啜るノエラ。

 その表情は伺えませんが、沈んだ表情をしていることでしょう。


「……お姉さま、どうして」


「? 何か言った? 声が小さいわよ?」


「……どうして、婚約者がツラいって言ってくれなかったんですの!!」


 ガシャンッと机を叩いて、私を糾弾するノエラ。

 その顔は酷く腫れていて、元の美しい顔の面影もありません。


「朝早くに起きて、座学や修練の数々……それにシエル王子があれほどに乱暴だったなんて、知りませんでしたわ!!」


「でも、私が事実を話したとしても、ノエラは婚約者生活を望んだでしょう? 私の話なんて、信じなかったでしょう?」


「そんなことはありません!! 最愛のお姉さまのことをですから、当然信じましたわ!!」


 嘘ですね。

 ノエラは私のことを見下していますので、絶対に信じなかったハズです。


「それで、どうしたいんですの?」


「婚約者の生活はうんざりです!! お姉さまに返還しますわ!!」


「今さら無理ですよ。シエル王子がそれを許すハズもありませんし」


「そんな……でも、私は!! もう嫌なんですの!!」


「まだたった1日じゃない。それに婚約者を返還したら、シエル王子の怒りを買って……殴殺されるかもね」


「うっっ!! でも……でも……」


 私は冷たい眼差しをノエラに送って、食事を続けます。

 その後は一切会話もなく、食卓には重たい空気が流れました。

 

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