第30話・高梁家
高梁は売家の看板が立っている隣家が見える、二階の部屋にいた。
この家は亡き両親が建てたもので、高梁が受け継いだ。
「…………」
時刻は既に21:00過ぎ。
高梁が設置している人感センサーライトがついた――そのライトがつくと、室内に鈴の音が響くように細工されている。
高梁は室内の照明を消し、遮光カーテンを開ける。
薄いレースのカーテン越しに、四人の若い女性が周囲を気にしながら売家の看板が立っている野島家の敷地に足を踏み入れていた。
高梁は定位置に置いているノートを手に取り、人感センサーライトの明かりを頼りに、四人の特徴を書き込む。
雇い主からは「特徴を捕らえたイラストもついていたらいいんだが」と言われ、教材を買って練習したが、絵の才能はなかったらしく上手くならず、特徴を掴んだイラストも描けなかったので、文字で出来るだけ細かく記すようにしている。
絵画教室にでも通えばいいのかもしれないが、高梁は中学の時のイジメで不登校になり、以来ずっと引き篭もっている……ことになっている。
イジメで不登校になったのは事実だが――
高梁が見ているとも知らず、四人組は野島家の敷地内をぐるりと周り、細身でセミロングの人物が家を指差した。その指し示した先にあるのは勝手口。
「また開いたのか」
勝手口が開いた音などは聞こえなかったが、四人は勝手口から室内に入ったのは分かった。
部屋に設置している時計で時間を確認し、野島家に入った時間をノートに記入する。
あの勝手口から出てきたら、また自宅の人感センサーが反応して鈴の音が鳴るので、それまでの間、高梁は部屋に積まれた、ファッション雑誌を開き、四人の恰好と似ているものを探す。
カーテンを閉め部屋の照明をつけ、ファッション雑誌の表紙に四色の付箋を貼る。
この四色は四人組を表し、付箋でどの人物がどのようなコーディネイトをしていたのか、分かるように。
ページを捲り似た洋服を赤い油性ペンで囲い、付箋を貼る。
四人は全員、流行の洋服を身につけていたので、雑誌も二冊で済んだ
そして鈴の音が鳴り、高梁は再び照明を消し、遮光カーテンを開けると、四人が野島家から出てきた所だった。
高梁は時計で時刻を確認して書き込んだ。
「ん…………」
四人のうちの一人が、手に何かを持っているのが見えた。
四人ともボディバッグやリュックサックを背負っているので、室内でバッグを開けてなにかを取り出し、そのまま手に持って出てきたのか? と高梁は考えたが、手に何かを持っているロングヘアの人物が三人に声を掛け、その手元を覗き込んだので――野島家からなにかを持ち出したのだと高梁は思った。
「面倒だ」
高梁は窓際の床に置いている暗視スコープを手に取り、持ち出したものを凝視する。
「本? ノート?」
開いている形から、ノートのようなものなのは分かったが、なにが書かれているかは見えなかった……はずなのだが、突如文字が歪んだ。
「あ…………」
歪んだ文字だが、日本語でも英語でも中国語でもない――悪戯書きのほうが、まだ分かりそうななにか。
だが高梁はそれが文字だと分かってしまった。
高梁は暗視ゴーグルを切り、頭を守るように抱えて蹲る。体は震えが止まらず――震えが止まったときには、すでに四人組の姿はなかった。
高梁は慣れた家で体をぶつけながら、二階のキッチンでコップに水を注ぐと、油と生臭さが混じった異臭が高梁の鼻だけではなく、肌や目に襲い掛かる。
「ひぃぃぃ!」
高梁はその臭いを高梁は何度も経験していた。水道を止め、無駄だと分かっているが布巾で蛇口を包み、冷蔵庫横に積んでいる、ダンボールからお茶のペットボトルを取り出し、廊下でキャップを開けるが、それも水道の水同様、腐臭と何かが混ざった臭いがしてきた。
急いでキャップを閉め、先ほど四人組を記録したノートと、ファッション雑誌を手に一階に降りて、宛名を書きシールも剥がしているレターパックに、持って降りたノートと雑誌を乱暴に入れて封をして家を出た。
高梁は中学生のときイジメで不登校になり、それから六年近く学校には通っていなかった。
他者からみたら自堕落な生活――家族と顔を合わせたくなく、昼夜逆転の生活をしていた高梁は、彼が一番目が冴える深夜に、隣家の野島家に侵入するなにかを見てしまった。
それが高梁に引き篭もりを選ばせることになる。
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