第18話・小林と渡辺・3
翌日、隣県の駅に降りてスマホと大きな荷物をコインロッカーに預けてから、昨晩届いたメールに書かれていたコインパーキングへ。
駅から程近いところにあったコインパーキングに徒歩で向かうと、写真通りに白いハイエースが見えてきた。ナンバーを確認してから、昨日から渡されていた車の鍵――このハイエース、かなりグレードが高そうなんだが、何故か鍵はスマートキーでもなければ、キーレスキーでもない。
昔の鍵穴に鍵を差し込むタイプ。
「……盗難対策かな」
車の窃盗集団が、スマートキーを……というニュースを思い出した。そういえば、ハイエースも狙われる車種の一つだとも。
だからわざわざ鍵の部分だけ、改良したのかも……などと、考えながらコインパーキングから車を出し目的地を目指す。
問題なく売り家に到着して、隣家とのやり取りを済ませてから、作業にとりかかる。庭も家も普通の建売住宅で、小さいとも大きいとも感じないサイズ感。
四人家族が住む、一般的な家。ここに家族十人とか住んでたら、ヤバそうだけど。
あとは毟った草を袋に入れて、車に積み込むだけとなった頃、時刻は12:30を過ぎていた。
昼食は買ってきても良かったのだが、ここから車で十分ほどの所に、美味しいラーメン屋がある。昼の営業時間に間に合うように、ハイエースに乗り込んでラーメン屋に。もちろん行き先は、朝コンビニに寄ったときにプリントしている。
「んー、うまかった」
適度な労働のあとの、味が濃い食べものは最高だ!
いい気分で仕上げに取りかかろうと、売り家に戻ってくると空き家の駐車場に車が停まっている。
クラクションを鳴らそうかと思ったが、下手に音を出すと、後々問題が起こりそうなので、路駐して車から降りて売り家を見にいった。
「ここで作業しているものなんですが」
車を停めた当人かどうかは分からないが、煙草を吸いながら庭を歩いている人が。
「煙草は吸わないで下さい」
ここで煙草を吸うなと言われているのに。あとで自分が煙草を吸ったと、苦情が入ったらどうしてくれるんだ!
そんな思いを込めて注意をしたのだが、相手は意に介さずみたいな態度で……ムカついた。
「ここについて? 知りませんよ。清掃のアルバイトです」
携帯灰皿を持っているとかなんとか言っていたが、売り家の庭で煙草を吸うのが悪いんだ。
更にそいつは「刑事だ」と言いだし――
「刑事さんなら、駐車場が空いてなくて、路駐するしかなくて困っている一般市民のために、早々に駐車場を明け渡してもらえませんか?」
刑事のせいで、こっちは路駐するハメになってるんだが?
刑事は車を駐車場から出したので、ハイエースを駐車場へ。刑事はまた車を降りてきたが、スマホが鳴り――車に乗り込んで去っていった。
「…………」
自分がスマホを触って煙草を吸ったと思われては困るので、
「車のナンバーと、刑事の名前を書いておこう」
自分は規則を破っていないことと、刑事と名乗った人物の名前――警察手帳を見せてきたので、フルネームは覚えたので、それをメモ帳に書き留める。
イレギュラーなことはそれくらいで、仕上げの作業をして、たかはし家の外トイレの鍵を返して売り家をあとにした。
ハイエースは朝停めていたコインパーキングに戻して、車の鍵を梱包材に包んでレターパックに詰めて、ポストに投函したら終わり。
「よし。旅行行こう!」
コインロッカーから荷物を取り出し、小旅行に――
**********
大学の学食で「いままで一番わりのいいバイトはなんだった?」という話をしている一団がいた。
その一団の近くに座っていたので、話の内容が聞こえてきた。
一番わりのよいバイトだと言われていた人物に、他のやつらが、もっと詳しくと尋ねる。
その人物――小林が語った売り家の住所は、俺の実家の近所だった。一家が行方不明というのも、なんとなく覚えている。
同学年にいた女子とその家族だったような。
「またツイッターでみかけたら、やりたいな」
「譲れよ、小林」
”小林”と呼ばれた人物が、またそのアルバイトができたのかどうかは知らない――俺は二浪して入った、希望ではなかったその大学を中退したから。
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