佐倉弥生

第01話・電話がかかってきた 1

 わたしの母はシングルマザーだった。

 父は分からない。わたしの妊娠が分かったと同時に、母の前から姿を消したと、母がいつも言っていた。

 そして続くのは「お前ができて、わたしの人生はメチャクチャになった」だった。

 その台詞は覚えているが、声はもう思い出せない。

 母はわたしが幼い頃にいなくなった。

 もともと男に依存するタイプだったので、わたしを置いて男とどこかへ行ったのだろうと――


 その後わたしは、児童養護施設に入所し、高校卒業までそこで生活し――高校三年のときに公務員試験を受けて合格。高校卒業と同時に児童養護施設をあとにした。


 の一人暮らし。

 母と暮らしていたときは、狭くてゴミに溢れたアパートの一室で、毛布を被って一人きりで過ごしていた。


 母が行方不明にならなければ、わたしは衰弱死か餓死していたかもしれない。


 公務員になってやく一ヶ月。

 五月病の意味を噛み締めながら、ゴールデンウィーク明け役所へと向かう。

 覚えることはたくさんあるけれど、どうにもやる気がでない。

 そんな日々を過ごしていたら、児童養護施設の職員から電話があった。


 内容は児童養護施設にいた、わたしと同い年で仲が良かった子が、


「ホスト……」

「ああ。かなりの借金を背負ったらしい。もしかしたら、佐倉さんのところに、お金を借りにいくかもしれないと思って、連絡させてもらった」


 ホストにはまってしまい、多額の借金を抱えたという報告だった。


「わざわざ、ありがとうございます」


 仲が良かった子は奨学金を貰って専門学校に進学したが、ゴールデンウィーク明けから専門学校を休み続けた。

 それだけなら、児童養護施設に連絡はこないが、アパートの家賃も滞納し、連絡がまったくつかないので、保証人になった児童養護施設の所長のもとに連絡があったので、管理会社の人と共にアパートを訪ねたら、郵便受けに消費者金融からの督促状がいくつも入っていた。

 そのアパートを引き払い――売れる物はほとんど売ったようで、部屋にはほとんど何もなかった。あんなに新生活を楽しみにして、予算とにらめっこして、真剣に悩んで家具を選んでいたのに……。


 十八歳で字度養護施設を出て、一人で生活をすると、寂しくて寂しくて――そしてホストにはまってしまう人がいるとは聞いていた。


 自分ははならないし、自分の周囲だって大丈夫だと思っていたけれど、そうじゃなかった。


 なんて言っていいのか分からない。誰かに聞いて欲しいけど、誰にもこんなことは話せない。

 どうしていいのか分からない。

 なにもしたくはないけれど、スマホから手を離すことができない。

 そして目的もなくクリックを繰り返していたら「なにを書き込んでもよい掲示板」というものに行き当たった。

 「掲示板」が分からなかったので検索してから、わたしは自分の人生を思うままに書き込んだ。


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