偽物

 男は和人に「死体の山を探しに行く」と伝えてそのまま別れた。

 短剣を持った男は何処までも続く茂みの中を途方もなく彷徨う。

 すると、男は突然立ち止まる。


「ふぅ、『カズト』かぁ……。クフッ、クククッ! いやぁ、危なかったぁー!」


 男は笑いを堪えようと口元を抑える


「まさか、この顔の異世界人の友人と会うとは……。これも運命、ってやつなのかな。……俺が言うと、何かクセェな!」


 そう言うと、男は再び歩き出す。


「でも、カズトってヤツ。魔法は使えないらしいから……。あっ、でもソリディって子は魔法を使えるって言ってたな。どんな魔法を使うんだか」


 首にある縫った痕を痒そうに掻くと、その手を前に出す。


「……そろそろ罠にかかってるかな」


 前に出した手の真下には大人が寝転がっても収まるほどの大きさをした魔法陣が浮かび上がった。

 そして、魔法陣は妖しく紫色に光りだす。

 光が収まると、魔法陣の上に一匹のレッドウルフが横に寝そべり絶命している。


「おっ、レッドウルフか。まぁ、普通のウルフと味はあんま変わんねぇけど、食べれりゃあいっか」


 男は両手でレッドウルフを抱える。


「よし、いただきまーすっ!」


 大きく口を開けると、一切加工のされていないレッドウルフにそのままかぶりつく。

 すると、絶命しているはずのレッドウルフの身体が魚のように跳ね始める。

 しばらくすると、再び動かなくなる。

 その瞬間、レッドウルフの皮や内蔵、骨までもが溶けていき男の手には黒い液体が残った。


「……プファーッ、生きてるって最高っ!」


 黒い液体を飲み干すと、男は口角を限界まで上げて笑っていた。


「でもやっぱり、人間が一番いいな。寿命も長いし。とりあえず、死体の山を探すフリだけでもやっておくか。おーい、死体の山さーん……」


 男はそう言いながら、薄暗い森の奥へと消えていった。

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