第13話腐ったバナナ
「まさか、そんな奇跡があるのね」
「そうだぜ、ソリディちゃん」
「気安く『ちゃん』付けしないでよっ!」
「グハァッ!」
「大丈夫か、泰迅ッ!」
朝日が昇り、すっかり明るくなった早朝。
ソリディと俺は目を覚ましてテントから外へ出ると、泰迅が出迎えてくれていた。
ソリディには昨日の泰迅との出来事を既に話している。
「ああ、だいじょ……。いや、まずい。徹夜の体に今のパンチは効い、て……アッ……」
「タイジィィイィンンッ!」
「はあ、何バカやってんのよ。ほら、回復するわよ」
ソリディは杖の先端で泰迅の腹部に当てて回復魔法を使う。
「ああ、死ぬかと思った。でも、徹夜の疲れも取れて正に『棚から牡丹餅』だな」
「棚から……、ボタモチ? 何よそれ」
「それは忘れてくれ。とりあえず、食事にして死体の山を探しに行こう」
「おっ、なら俺も食べ物を持ってきたんだ」
そう言って泰迅は肩から腰にぶら下げている小さいバックから直接肉塊を取り出す。
その肉塊は何故か緑色と青色が混ざっていた。
「これを焼いて――」
「ソリディ、今日も干し肉とパンだ。水も付いてるぞ」
「ワーイ。ワタシ、ホシニクトパンガダイスキ。ミズモアルナンテゴウカダワ!」
俺とソリディは食事の準備をそそくさと始める隣で、泰迅は「ま、いっか」、と言いながら小さなバックから取りだした木製の板の上に謎の肉塊を叩きつけ始めた。
○ ○ ○ ○ ○
食事を終えた俺達は死体の山探しを再開し、再びオルダと連絡を取り合っていた。
『それで、カズトの友人であるタイジン君?』
「な、何ですか?」
『この島でよく今まで生きてこれたね』
「あはは……。まぁ、何回か危ない時はあったんですが魔法で何とか……」
『そうなのか。……よかったらでいんだけど、この問題を片付けたら僕の城に来ないか。それで、カズト達に協力して欲しいのだが……』
「マジすか! 是非、行かせてください」
『そうか、良かった……』
オルダは深く息を漏らしながらそう言う。
『ちなみにだけど、君はこの島でどうやって生きてきたんだ?』
「魔物を食べてきたんだよ」
『魔物を?』
「そうだよ」
『そうか……魔物か』
「……そういえば。なぁ、オルダ。……おーい、オルダー! どうしたんだろ」
ソリディの耳元にある魔法陣は消えてないものの、オルダは黙りこんでしまった。
俺は魔法陣に向かって大声で呼びかける。
「おおーいっ!! オル――」
「うるさいわねっ!!!」
「オガッ!」
ソリディは俺の頬あたりにグーで殴ってきた。
「魔法陣があるからって私の耳にも音が貫通して聞こえるのよっ。そんな大声で話されたら、鼓膜が破れちゃうじゃない!」
「わ、悪かった……」
「まったく」と言いながらも、殴った箇所に杖を押し付けて回復魔法を使ってくれた。
「というより、このまま歩き続けても埒が明かないわね。魔族の中に『生体反応を察知する魔法』を扱えるのがいるみたいだけど、流石に『死体を探す魔法』を扱えるのはいない……というより、世界中でそんな魔法は確認されて無いのよね」
「打つ手なし、か……」
「悪いっ! この島に住んでいたのに何も知らなくて……」
泰迅は両手を合わせて謝ってくる。
「いや、泰迅は悪くないよ。そもそも、お前の住んでいる島に無断で入ってきた俺達の方が悪いんだよ」
「でも、俺も何か協力を……。あっ!」
すると、泰迅は何か思いついたかのような顔をすると地面に手を当てる。
「何するんだ?」
「へっへっー。見てろよ。……ハァッ!」
すると突然、地面が激しく揺れ始める。
「きゃあっ!」
「大丈夫か、ソリ……のわっ!?」
ソリディに駆け寄ろうとした俺は揺れによって転んでしまった。
「二人共……ゴメンッ! ンッ、でも、コレでっ、死体が何処にあるか……ワカルハ、ズッ!」
しばらくすると、周りにあった大きな木々が地面に呑まれていくように消えていく。
「な、何だこれ!」
「俺の魔法は『物体の干渉を無くす魔法 』。今、島全体に生えている木とか草の物理的干渉を無くしている。これで死体が見つかるはず」
「す、凄いわね……。でも、気持ち悪い。吐きそう」
それからしばらく揺れは続き、収まる頃にはそこら中に生えていた木々や草までもが綺麗さっぱり消えていた。
「……スゲーよ、泰迅。島がただのでっかい岩みたいになってるよ」
今この島には、俺達三人だけが島の中央に立っている。
「……んん、どうやら無さそうね。五十年前のことだから死体はもう土に還っちゃってるかもしれないわね」
「そしたら、オルダにもそう言っておくか」
「そうね。……ちょっと、オルダ。いつまで黙っているのよ。いい加減返事をしなさいよ!」
それでもオルダはうんともすんとも言わず、聞こえてくるのはオルダの鼻息だけだった。
「ねぇ、オル……」
『……』
「……。!?」
「んっ、どうした」
一瞬だけオルダの声が微かに聞こえたと思うと、ソリディは固まって動かなくなってしまった。
目の前に立って顔を覗くと瞳孔は開き、何かに怯えるかのように少しづつ呼吸が荒くなり始めた。
俺に気付いていなかったのか真正面を見ていたソリディは、目だけをゆっくりと動かして俺を見る。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「本当に大丈夫か? どこか怪我とか……」
「…て」
「えっ?」
「逃げてっ!!!!」
「うわっ、急に叫ぶなよ……。てか『逃げて』ってなに……か……!??」
突然、俺の後ろから肉を割くような音がした。
その音と共に背中を何かで刺されたような痛みを感じた。
「アアァッ! グッ、アァ……」
「……ウソ。ハァハァ、カズ……ト」
次第に猛烈な痛みが俺に襲いかかり、声を出すことが出来なくなってきた。
頭だけ振り返ってみると、そこには短剣を俺に突き刺している泰迅がいた。
だが、その顔は泰迅ではあるが泰迅の顔では無かった。
悪意によって作られた、見たことの無い満面の笑みだ。
「ウヒヒッ!」
同時に服のハイネックによって見えなかった泰迅の首元が見える。
そこには、首の周りを囲むように何かで縫った痕があった。
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