第12話再会はバナナと共に

「いやー、まさかこんな島で。というか異世界で和人と会うとは思わなかったなあっ!」

「俺もだよ。正直この世界で一人で生きていくのは心細かったんだよ」


 テントの近くで魔法の火が閉じ込められた瓶を囲んで、俺と泰迅は雑談している。

 先程までの空気とは違い、異世界での再会に喜びを噛み締めるように語り合っていた。


「えっ! お前一人で生きてるのか」

「えっと……」


 エアレズは俺の事情を知っていて、色々とサポートをしてくれているから仲間でいいはず。

 だが、ほかの三人と俺はどういう関係だろうか?

 ソリディは俺があのセリオ達の仲間では無いと今日は言っていた。

 そして今は一緒にいる。

 ということは、ソリディも仲間と言っていいのだろうか?


「なんというか、この世界に来た時……」


 泰迅には俺が今置かれている状況をある程度伝えた。

 念の為エアレズに関することや未来人であるセリオ達のこと、そして手紙の内容については話さなかった。


「村を燃やした犯人扱い、そして犯人に遭遇したものの逃げられて挙句の果てには洞窟を崩落させた罪の濡れ衣を着させられ、今じゃこの島で魔王による『罰』という体で死体処理かー……。散々だな」

「そうなんだよ、なんでこんなことになってんのかマジでわかんないんだよっ!!! しかも俺、魔法が使えないんだよ。ゴブリンに負けそうになるぐらい貧弱なんだよっ!どう生きていけばいいんだよ!??」


 泰迅に色々と話しているうちに、俺は何かの糸が切れたかのように感情が爆発していた。


「あはは……。まぁ、出会いは最悪だったんだろうけど、ソリディって子と今は一緒にいるってことはなんやかんやで上手くいってんだろ」

「まぁ、な。……そうだ、バナナ食うか?」

「もしかして、お前が殺されそうになった原因のか?」


 俺はバックから先程入れた数本の内、一本のバナナを取り出した。


「ほら、見てみろよ」

「まじか、ガチでバナナだ」


 泰迅にそのバナナを渡し、武器として使ったバナナの皮を俺は剥き始める。


「はぁ。なんというか、このバナナで俺の異世界生活がここまでおかしなことになるとはな」

「異世界なんだから俺たちの常識が通じなくてもおかしくないだろ。とりあえず今はバナナで栄養補給しとこうぜ。明日は俺も協力するぜ!」

「まじか、助かるわぁ!」


 異世界に来た時は青いバナナを食べて苦しめられたが、やっと黄色いバナナを食べられる。

 剥き終わったバナナの身を俺たちは口の中に運ぶ。


「んむ……。うん、バナナだ」

「うん、めちゃくちゃバナナだ」


 異世界産のバナナだったのもあって味が少し変わっているものだと思っていたが、元の世界と同じごく普通のバナナだった。


「でも、久しぶりに前世の食べ物を食べれてよかった。この島の生き物は魔物ばっかで、ほとんど魔物を食べてからほんと良かったわ」

「えっ、お前この島で暮らしてきたの!?」

「ああ。実はこの島、元々はマリアス村っていう村があったんだよ。だけど、ある事件が起きて村は崩壊。皆の死体だけがこの島に残ったんだ……。その村に住んでいた俺だけが唯一生き残って、皆の死体を埋葬してこの島で暮らすことにしたんだ」


 泰迅は瓶の中で揺れる火を見つめる。


「そうか。お前も大変だったんだな。この島で暮らしてて不便なこととか無いのか?」

「あるにはあるけど……。でも、も一人で暮らしているから今の暮らしには慣れてるよ」

「……十年間?」

「そうだけど、どうした?」

「俺、つい最近この世界に来たばっかなんだけど……」

「そういえば、さっきのお前の話。つい最近のことだったよな。……んっ? お前、何歳だ」

「十五だけど……」

「俺、十八なんだけど……」

「えっ」

「えっ」


 俺たちは互いにキョトンとした顔を見合わせる。


「まさかお前、子供の時があったのか……」

「いや、普通あるだろっ! ……てかお前、いつ死んだんだ?」

「それがいつ死んだのか分からないんだよ。というか、俺も赤ちゃんからやり直すものだと思っていたら前世のまんまの姿だからさ。で、お前はいつ死んだ?」

「それが俺も覚えてないんだよ。気付いたらこの島で生まれていてさ。前世の姿なのは俺も同じだけど。てか、こんなに時間の差があるってのも不思議だし……」


 バナナを食べ終え、俺達は『転生』の仕組みについて考えて互いに意見を交換しあった。

 その結果、俺達は前世で別々の時間で亡くなり、日本よりもこの世界の進むスピードは速いという結論に至った。

 そうしている内に辺りは少し明るくなっていた。


「ふあぁぁあっ……。やべ、もう明るくなってきた」

「本当だ。久しぶりに人と話せてつい……。悪かった、先に死体の山を探しとくから寝てていいぜ」


 泰迅はベルトに付けた鞘から、俺の首元に当てていた短剣を取り出す。


「ありがとう。……ちなみにだけど、その死体の山って今まで見た事は無いのか?」

「悪いけど、見たこと無い。魔王は五十年前に一度来たことがある程度だよな。この島で何があったか分からないけど、俺がこの世界に来た時はそんなものはなかった。仮に死体なんだから既に腐ってると思うが……」

「まぁ、とりあえず寝てくるわ」

「分かった。ゆっくり休めよ」


 そう言って俺はテントの中へ戻り、深い眠りへと落ちていった――。

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