第11話バナナとプランテン
ソリディと俺は森の茂みの中をひたすら歩き続け、体感で二時間ぐらい経っているように感じた。
「ねぇ、本当に開けた場所なんてあるの?」
『この前行った時は確かにあったんだけどなあ。そんなに時間も掛からないはずだけど……』
死体の山があるという開けた場所になかなか辿り着かなかった為、オルダと連絡を取り合って進んでいる。
「この前っていつなんだ?」
『えーっと、二十年前かな』
「はぁああっ!!!?」
『うわぁッ!? いてぇ……』
「そんなに時間が経ってたら開けた場所でも草なんてボーボーに生えているじゃない!!」
「というか、二十年前をこの前って言うなよ!」
俺の大きい声でオルダは椅子から転げ落ちたのか床に叩きつけられたような音がした。
しかし、そんなことは気にせずオルダの適当さに俺たちは腹を立てた。
『ごめんごめんっ! 君たち人間からすれば長いもんね』
「そもそも、その時に死体を処理しとけばよかったんじゃない」
『……。実は、魔法でその死体の山を燃やそうと思ったんだが、出来なかったんだ』
「出来なかった?」
『うん。多分その頃、誰かが死体の山に魔法をかけて燃えないようにしていたんだ。調べたけど、誰の魔法かは特定出来なくてさ』
「それで今日まで放置してたのね」
『一応、次の日にまた行こうとしたんだ。でも、他に大事な仕事があって、部下にこの件を頼んではいたんだが……』
「ダメだったのね」
『ああ……。それからこの件は放置されたまま時間が過ぎていってしまった。正直、死体がもう残ってるか分からないけど、念の為調べて欲しいんだ』
「その死体の山がなんなのかも気になるけど……。まぁ、ちゃんとやっておくわ」
『そうか、ありがとう……。えー、とっ、こんな空気の中、悪いけど……』
オルダは安堵した声でそう言ったあと、何やら申し訳なさそうにしている。
『今日は野宿して貰えないかな?』
「ノジュクッ!?」「ノジュクッ!?」
『いやぁ、本当は今日中に終わるものだと思っててさ。一応、ディシプリなら魔法でこっちの城に転移させることも出来るんだけど、定時だったからもう家に返しちゃって……』
「テイっ……。はぁ、分かったわ。言われた通り、今日は野宿するわよ……」
ソリディは何かを言おうとしたが『定時』という言葉に引っかかったのか諦めてしまった。
『本当にごめん! 帰ってきたら褒美を三つあげるからさ、許してくれないかい?』
「分かったわよ。……じゃあ、帰ってきたら魔法の威力が上がる杖とプリン百皿。それを用意したら最後は裸で土下座して」
『ああ、分かった。帰ってきたら絶対に……。ちょっと待って最後――』
「バイバイ」
魔王は何かを言いかけたにも関わらず、ソリディは容赦なく連絡を切った。
「……ふぅ。しかし、野宿するにしても色々と必要なんだけど……」
「あっ、実はエアレズからこれを預かっててさ……」
エアレズから渡されて背負っていたバックを見せる。
「なら、安心ね。……ちなみにだけど、何処に何があるか分かるの?」
「何処って、普通にバックの中に何かしら入ってるんだろ」
「……えっと、何か言われてたりしない?」
「いや、『ソリディを頼む』って言われて手渡されただけだけど……」
ソリディは何故か片手で頭を抱え、呆れた表情をする。
「……アンタ、バックを開けてみなさい」
「わ、分かった」
言われた通り俺はバックのボタンを外し、中を見てみる。
「なんだこれっ! 何も見えないぞ……」
バックの中身は真っ暗な空間が広がっており、底すらも見えなかった。
「エアレズのバックは『別の空間に転移する』魔法が施されているの。更にその空間は魔法によって作られた物で、四次元空間になっているのよ。食料や道具、それ以外に武器や罠まで入っているらしいの。……言いたいこと、わかったかしら」
「……」
この暗い空間で手探りで野宿する為の道具や食料を探さなければならない。
しかし、その中には武器や罠まで入っている。
「ソリディ、回復魔法はあと何回使える?」
「オルダのおかげで千回は軽く使えるわ。しかも、魔力の質も高いから効果も抜群よ!」
ソリディは大きな杖を持ちながら、ニコニコと俺に向かって優しく笑う。
「そうか、よしっ。……オラアァァアァッッ!!」
俺は意を決して、バックの中に手を突っ込んだ。
○ ○ ○ ○ ○
「ふぅ、意外とコレだけでもお腹は膨れるわね」
この島に来た時はまだ太陽が真上にあったにもかかわらず、日は暮れて外はすっかり暗くなってしまった。
そして今、俺達は五人でも余裕で入れるかなり大きいテントの中にいる。
「干し肉とこの保存用のパンは初めて食べたけど、意外といけるな」
地面には干し肉が入っていた容器とパンの入っていた缶が散らばっている。
この二つはエアレズのバックから取り出した物だ。
「そういえば今更だけど、もう怪我してるところは無いの?」
「あははは……。まぁ、一応」
「そうなのね。良かったわ」
結局、バックから食料とこのテントを取り出すのに二百回近く回復魔法を使われた。
斧で手の平を切り裂き、トラバサミの歯が手にくい込むなど。
手探りで使っていた右手の傷は既に治ってはいるが、今でも違和感が残っている。
「……。ねぇ、ここに来た時から思ってたんだけど、何か変じゃない」
ソリディはテントの入口を見つめる。
「変っ? ……特に変わりは無いけど」
「……そうね、私の勘違いだわ。……ごめん、眠たくなってきちゃった」
ソリディは目を擦って眠たそうにしている。
「そうか。じゃあ、俺は外に魔物とかいないか確認してから寝よっかな」
「アンタ、一人で大丈夫なの?」
「安心してくれ。何かあったら全力で叫ぶっ!」
「……なら安心ね。おやすみ……」
『人任せじゃないのっ!』と、突っ込まれると思いながら言ったが、かなり疲れていたのか直ぐに眠ってしまった。
だが、こちらの都合的にもちょうど良かった。
俺はエアレズのバックを手に持って外へ出る。
「確かこの辺に……あった。やっぱりコレがオルダからのプレゼントだよなぁ」
ソリディに回復魔法をかけられながらバックの中を探っていた時に、たまたま見覚えのあるものを取りだしてしまった。
その時はソリディに気づかれないようにそっと中に戻し、角度と場所だけを覚えていた。
「どうしよう、このバナナ……」
何故か十五本に分けられ、黄色く熟したバナナとオルダの手紙が共に入っていた。
その手紙にはこう書かれていた。
『カズト。僕は君が異世界人だということは知っている。だけど安心してくれ、僕は君自体に何かする訳では無いし君の正体も隠す。だが、脅しみたいになって申し訳ないが、協力して欲しいことがある。この世界と君の世界を行き来している人物がいる。ソイツを探し出して欲しい。詳細は後で。追記:そのバナナはプレゼントだよ。使うのは勿論、食べても問題ないよ』
手紙の最後にはオルダのサインが描かれている。
オルダはこのバナナが食べられる事を知っているらしいが、『使うのは勿論』ということはやっぱりこの世界では武器として扱うのが一般的な認識なんだろうか。
不穏な内容が気になるが、ひとまず俺は護身用にバナナを一本だけ右ポケットにいれ、残りのバナナと手紙はバックに入れて背負い、見回りを始めた。
「……見回りと言っても何処を見ればいんだろ。周りは木、ばっかだし」
真夜中で肌寒い風が吹き、辺りの木々や草むらが揺れていた。
「帰るか」
どこを見ればいいか分からず、俺は数歩だけ見回り(?)をし、そのままテントに帰って眠ることにした。
「――動くな。動けばお前の首を掻っ切る。叫んでも同じだ」
「……アッ!??」
テントの中に入ろうと屈んだ一瞬の隙に俺の背後は誰かに取られ、首元に短剣を当てられている。
急な事に動揺し、声が出そうになってしまったが、何とか抑えることができた。
「お前、どうやってこの島へ入ってきた?この島は外との干渉を受けない。普通は入ることが出来ないはずだ。……まさか、お前がこの島に遺体を放棄しているのか?」
背後から、低めな男の声。
いや、ワザと低めな声を出してそう問いかけてきた。
「……違う」
「なら何をしに来た」
男は短剣の刃の背を押し当ててくる。
「魔王オルダって分かるか?」
「勿論、知っている。それがどうした」
「俺はオルダに腕を買われてこの島の遺体を処理するように頼まれてきた」
「証拠はあるのか?」
「証拠……っ! そうだ、俺のバックの中に手紙が入っている。そこにオルダのサインが書かれているんだが、証拠にならないだろうか」
すると、男は首元から短剣を離し、無言で俺の背負っているバックを開ける。
「コレは……何も入ってないじゃないか」
「……このバックは四次元空間と繋がってる。だから、手紙を取り出すにも工夫がいるんだ」
「なら取り出して渡してくれ。後ろは振り向くな」
バックを俺の前に持っていき、手紙を取り出す。
渡そうとしたが手紙の内容が他の人に読まれたらまずい内容だったことを思い出し、無駄だとは思いつつ前半の文章だけでも読まれないように谷折にして男に渡した。
「……確かに。このサインはオルダだ。……んっ?」
後ろから紙をめくる様な音が鳴っている。
恐らく、谷折になっているのに気づいて元に戻そうとしているのだろう。
俺はポケットに入れたバナナに手をかけて相手の隙を狙う。
「……『カズトへ』」
「……ッ!」
読まれてしまった。やるしか無い……。
そう思い、ポケットからバナナを取り出し背後にいる男に攻撃する為後ろを振り返る勢いでバナナを横に薙ぎ払おうとした。
「待ってくれ……」
男がそう言った時には勢いが止まらず、首元辺りを切り裂いてしまった。
「……どわっ!?」
ように見えたが何故か男の首には傷一つ付いておらず、切った感触もなく俺はしゃがんだ体制を崩しそうになった。
何とか倒れずに耐え、男と正面を向き合う。
すると、驚くべきことにその男の顔に俺は見覚えがあった。
相手も俺の顔を見て目に涙を浮かべた。
「お前、本当にカズト……なのか?」
男は俺に指を指す。
先程の低い声とは違い、声が少し高くなった。
俺は溢れ出そうになる涙を堪えながら右手に持つバナナを地面に落とした。
「マジかよ。……こんなのありかよ。なあ、
男の正体は
俺の前世での同級生であり親友だ。
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