第9話シュガースポットの無いバナナ
「……よし、やっとこのセリフが言えるな」
俺達はアヴィロ国王と謁見した部屋と同じぐらいに広い魔王城内部のとある部屋に訪れていた。
部屋の両端に付けられた窓から見える景色は、如何にも魔王城がありそうなトゲトゲとした無数の謎の巨岩と、この世の終わりを連想させるような薄黒い雲が幾つもの渦を巻いて空を覆っているのが見える。
そして、肝心のオルダはこの部屋の奥にある玉座で肘を付いて座っていた。
「ヴッ、ヴンッ……。フフフッ、よくぞ参――」
しかし、俺はこの世界以前にコイツらの生い立ちや事情も知らない。
それによって俺の異世界バレに繋がってしまうかもしれない。
宿屋でのエアレズの話によれば、俺以外の異世界人は既に何人か正体を知られている可能性がある。
その人達がどうなったかは聞きそびれてしまったがもしもバレた時、俺はコイツらから。
そして、世界からどう扱われるのか。
考えるだけでも身の毛がよだつ。
「……来いっ、勇敢なる者たちよっ! ってな感じで軽い挨拶は終わらせて、改めて」
オルダは玉座から立ち上がり、ひな壇を降りて俺の目の前に立つ。
「僕は魔王オルダ。先祖代々から受け継いできたこの城の管理と世界中で起きている問題をサポートしたり、直接その国に赴いて解決している。ちなみに僕は三十七代目の魔王だ。宜しく」
オルダは俺に向けて握手を求めてくる。
「よ、よろしく……冷たッ!?」
オルダの手は生き物としては有り得ないぐらいに冷えており、まるで屍のようだった。
「おっと、ごめんごめん。……で、どうする? 何か聞きたいことはあるかい」
「それなら、一つ。私達はこれからどうなるんだ。エアレズとカズトだけでは無く私達にも何かしらの罰を与えるのだろ」
「……んっ? いやっ、別に何もしないよ。というより、やってないでしょ。エアレズとカズト」
オルダはキョトンとした顔でそう言った。
「でも、何か俺達にやっておかないとあの国の王様にバレるんじゃないのか。また呼び出されて何をされるか……」
「そうなんだよ。しかも爺ちゃんと父さんが積み上げてきた四百年分の魔族全体の信頼を著しく損ねてしまうかもしれない」
オルダはエアレズと同じ身長まで屈み、隣でエアレズの肩を組んだ。
「そこで、エアレズとあらかじめ決めていたんだが、君たちには僕の仕事を手伝って貰いたい」
すると、俺達をここに連れてきた先程の女性が黒い光の中から現れ大量の紙を持って現れた。
「申し遅れました。ワタクシの名前はディシプと申します。以後、お見知り置きを」
「あっ、どうも……」
ディシプリは軽く会釈をしながら自己紹介をし、すぐに本題へと入った。
「では、こちらの資料をお受け取り下さい。そこに書かれている通り、あなた方には以下の問題を解決して頂きたいのです」
受け取った資料を魔王以外全員が受け取り、黙読していく。
「……ちょっと待って。『アラガス島に放置されている約三千人の死体処理』ってどういうことよ……」
ソリディは資料に書かれた内容に顔をひきつらせていた。
「『三つの村の村人達を殺めた殺人鬼の女性の討伐』……。そういえば昔、ある村に住んでいた普通の女の子が一夜にしてその村の人達を殺戮したという噂を聞いたが、まさか本当にそんな悲惨な事件があったのか……」
「物騒なものばっかりだな。唯一まともそうなのが『アルクニ村の近くの森の中にあると言われている紅く光る水晶の調査、及び保護』ぐらいですね。んっ、『アルクニ村の近く』ってあそこの森か?」
約三十枚に渡って書かれている事件や調査内容はどれも悲惨で過酷な物が多い。
「これ、俺達が全部やるのか」
「いやいや、流石に全部は厳しいと思うから、十個ぐらいでいいよ」
「十個でもこの内容だと、多い気がするのだけど……」
オルダは「そうだよね」と言い、苦笑いする。
「でも悪魔で洞窟を崩落させた『罰』という体だから、やってくれないと困る。その代わり、僕達魔族も君たちのことを精一杯サポートはするよ」
そう言うと、オルダはエアレズの左胸あたりに右手で触れて目を瞑る。
すると、オルダの腕に血管が浮かび上がったと思いきや光がまるで血管を伝っていくように手の平に流れる。
「なっ……」
「服で隠れていて分からなかったが見た目よりもかなりの筋肉質だな。それに、あの光は……」
それに伴うようにエアレズの左胸あたりも光だし、その光はジワジワと身体全体に広がっていった。
エアレズの身体を光が完全に包み込むと、オルダは手を離す。
「……よし!」
「今のはなんだ……」
魔王は笑いながら右手の平をこちらに向ける。
「実は僕の魔法は『魔力を生み出す魔法』でね」
「……『魔力を生み出す魔法』ってなんか、頭が痛くなるな。魔法って魔力を使うんだよな。つまり、魔力を使って魔力を生み出しているのか?」
「うーん……。『生み出す』というよりは『増殖する』の方が合ってるのかな? 魔力は時間が経てば徐々に回復していく。だけど僕は、瞬時に自分の魔力を魔法で増殖させて回復することが出来る。つまり、魔力を無限に使える。更に……」
オルダは今度は俺の左胸に触れてくる。
「生み出した魔力を他人に分け与えることもできる。ただ、これは少し時間がかかるから心臓辺りから魔力を供給して時間を短縮しているんだ」
オルダの右腕はエアレズの時と同じく血管が浮かび上がった。
「ちなみに、時間で魔力が回復すると言っても魔力は三分の一しか回復しない。だけど、僕は魔力を満タンまで回復することが出来る」
そして、血管を伝ってオルダから光が俺の方に向かってくる。
「だけど、その人が持つことの出来る魔力量よりも多く魔力を与えちゃうと、四肢が爆散しちゃうから気を……!!?」
何だか怖い話をしている途中で、オルダは俺から手を離す。
「どうしたんだ?」
「いや、こんなこと初めてで。その、大変言い難いんだが……」
オルダは先程までのおちゃらけた様子から一変し、何かを言いづらくして口元を押さえている。
「……カズト、僕は君に魔力を与えることが出来ない。いや、魔力を保管する器自体がないんだ」
「えっと、つまり?」
「……君はこの人生において、魔法を使うことは出来ない」
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