第8話バナナの魔王様
――なんでこんなところに魔王が!?
思わずそう叫びたくなるのを我慢し、俺の脇を通っていく魔王を流し目で見続ける。
そして魔王は俺たちの方を向きながら目の前で立ち止まった。
「それで、この二人が例の?」
「ああ、そうだ。ソイツらがあの洞窟を崩落させた犯人だ」
「……!? おっ、おい待っ……ウグッ!」
先程のエアレズの証言を、まるで一切聞いていなかったかのようにアヴィロ国王は俺とエアレズを切り捨てた。
流石に我慢が出来ず、俺は立ち上がって国王に反論しようとするも急に口と体が動かなくなった。
「うふふっ、駄目ですよ。あとは魔王オルダ様があなた達をどう処分するか決めるのですよ。……あっ、『あなた達』の中には勿論、後ろの三人も含まれていますのよ」
恐らくあの女の魔法によって俺は喋れなくなっているのだろう。
しかし、この状況でエアレズと後ろの三人は何もアクションを起こそうという素振りを見せなかった。
エアレズは特にそういった魔法がかかっている様子は無い。
だが、後ろの三人をよく見てみると目は虚ろで何も無い空間をただ一点見つめていた。
これも、あの女の魔法なのだろうか。
「よし、魔王よ。連れて行ってくれ」
「……」
「アッ、エッ、エ……ヴァ、レェフ……」
俺は少しだけ動く舌を使ってエアレズに助けを求める。
「だから僕は……。うーん、まあ、いいや。えっと、五人共、僕に着いてきて」
そういうとオルダは来た道を歩きはじめる。
すると、ルーチェ、リーノ、ソリディという順番で三人はおぼつかない足取りでオルダの後ろを着いていく。
「……!?」
そして、自分の意思とは関係なく俺の脚も勝手に動き始め、三人の後を着いていく。
その後ろで跪いていたエアレズはゆっくりと立ち上がると、俺の後ろにピッタリと着いてきた。
すると、エアレズは俺にしか聞こえないぐらいの声量で囁いてきた。
『もう少し耐えてくれ……』
「……っ」
俺はその言葉を信じて、今はこの状況に身を任せることにした。
「それでは、後は僕に任せて下さい」
そうして部屋の外に出ると、ゆっくりと扉は閉まっていく。
「ふう……。これで大丈夫かな」
するとオルダは、コソコソと誰もいない空間に向かって喋り始めた。
しばらくして、会話が終わったのかこちらに振り返ってきた。
「……んっ。あっ、あー。口が動く……。てか、脚も動かせるようになってる」
同時に俺の口と脚は自由が効くようになると、続いて皆も元に戻っていた。
「……っ、ここは、部屋の外……なのか?」
「あれっ!? もしかして俺、寝てた?」
「……。いいえ、多分違うわ。私達、魔法で意識が無くなっていたのよ」
ソリディは自分の両手をじっくりと交互に見る。
そして、エアレズは俺達の様子を見てなのか硬ばった表情が少し和らいでいた。
「何とか上手くいったな」
「本当だよ……。エアレズから久しぶりに連絡が来たと思ったらこんなことになってるなんて……」
「……っ!? なっ、なんでこんなところに魔王が!?」
それ、俺もさっき言いそうになった。
リーノは、俺が先程思わず叫びそうになった言葉を一門一句間違わずに言ってくれた。
「……なぁ、エアレズ。この魔王とどういう関係なんだ?」
「そうだな……。よし、丁度いい機会だ。リーノも一緒に聞いてくれ」
「わっ、わかった」
「……んっ、てことはソリディとルーチェは魔王とエアレズの関係を知ってるのか?」
「……ああ、私達は既に知っている。ただ、リーノは数ヶ月前に私達のパーティに入ったばかりで、まだ言えてなかったんだ」
「そうなのか」と、リーノは少し落ち込んだ様子だった。
自分だけが仲間の秘密を知らなかったからだろうか。
「……では、話すぞ。ワシは、魔族と人間の争いを終わらせた『
「ちょっと待て!!?」
「分かるぞ。私もエアレズが三世神の一人と聞いた時、当時は信じられ……」
「そこじゃないっ! いや、それも凄いんだろうけど魔族と人間の争いが終わった、ってどういうことだ!?」
ルーチェとソリディは顔を見合わせ、困惑した表情を見せる。
「あんた、本当に森の中で暮らしてたの? いや、森で暮らしてても普通は分かると思うんだけど……」
ルーチェとソリディは俺に鋭い目を向けながら問い詰めようとしてくる。
だが、エアレズはそのまま話の続きを話し始めた。
「まぁ、ということでワシは三世神として他の二人と魔王の元へ乗り込んでな。ワシはその二人よりも戦闘に関しては衰えていたから、魔王に争いを辞めるように説得する役割を担っていた」
「で、それが俺のおじいちゃんでその頃には魔族がなんで人間と争い始めたのかもイマイチ分からなくなっていたから、戦争はやめて人間達と手を取り合ってこの世界を保護していくことにしたんだ」
エアレズが歴史の教科書に載るレベルの偉人だったこと、この世界ではファンタジー作品で定番の魔王との戦争はあやふやな理由で終わっていたことなど。
俺はまだこの世界に関して理解しきれていないことを改めて実感した。
俺の失言に関してルーチェとソリディに色々と問いただされる中、先程から一人だけ沈黙している男がいた。
「リーノ、どうしたんだ?」
「……えっ? ああっ、あの、エアレズがまさか三世神の一人だとは思わなくってさ。驚きすぎて声が出なかったんだよ。あはは……」
「そうか……。ならいいが」
ルーチェとソリディの質問をあやふやにして答えながらもエアレズとリーノの会話を俺は横から聞いていた。
催眠が解けたあとのリーノの様子を見るに、かなり大袈裟に驚くと思っていたが顎に手を当て何かを考えてる様に見えた。
「えーとっ、色々と聞きたいことはあるかもしれないけど、とりあえず僕の城に行こっか。準備も出来てるからさ」
「城って……」
「お待たせしましたっ、オルダ様」
オルダの隣に突然として女性が現れた。
そして、それを見たソリディは表情は変わらなかったものの一瞬だけ体をビクつかせた。
女性は頭から角が生え、目のやり場に困るぐらいに少し露出の多い服を着ている。
恐らく、オルダの従者か何かだろう。
「じゃあ、お願いするよ」
女性は右手を前に突き出すと、地面に幾何学模様のサークルが浮かび上がる。
そして俺達は黒い光に包まれ、オルダの城――魔王城へと訪れることになった。
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