第7話ライトグリーンなバナナ
「……大丈夫か」
「あの洞窟の中ではそんな心配はしてくれなかったのになんだよ、今更……」
「あの時はカズトがあっち側と繋がっているんじゃないかと疑っていたんだ。……まあ、今でも私の中でその疑惑は完全には拭いきれないが」
ルーチェはセリオの言葉を鵜呑みにしてアルクニ村へ向かったが、村の様子から話は嘘だったと勘づいたらしい。
その後すぐに洞窟の入口前まで戻ると、洞窟は崩落しており岩や土葬で埋まっていた。
アルクニ村の人達と村から一番近い街であるサルマーレの兵士達にも協力を仰ぎ、土砂で埋もれた俺たちは魔法や道具などで三日かけて掘り起こされた。
それからソリディに回復魔法でひたすら癒してもらい、掘り起こされてから二日後に俺はサルマーレの宿屋で目を覚ました。
そして、あの二人がソリディの村を燃やした犯人だということを伝えた。
「だが、エアレズが無事に帰ってきたんだ。カズトとあの二人がいる状況じゃ、流石のエアレズでも数で負けていただろう。少なくともお前とあの二人は繋がってはいないのだろ?」
ルーチェは最初に会った時のように微笑みながらそう言い、俺は頷いた。
エアレズは俺が目覚める一日前に起きたらしく、今は隣の部屋で俺と同じく休んでいるらしい。
俺よりも早く起きるってあの爺さん、何者なんだ?
「今はカズトに敵意がないことだけは信じよう。まぁ、カズトがその一人の戦力に含まれるかどうかは分からないがなっ!」
「アハハハハ、ソウダナ! じゃあ、ルーチェはタイミングを良くしような!」
「アハハハハ、ソウダナ! ……死ねッ!!!」
本人も自覚はしていたのか、ルーチェは笑顔で俺の首を絞めに襲いかかってくる。
「何をやっているんだ。そろそろ、行くぞ」
部屋の扉の向こうからエアレズとリーノ、そしてソルディがこちらを覗いていた。
「!? あっ、ああ、すまない。今から支度してくるから待っていてくれ」
ルーチェは俺の首を掴む寸前だった手を離して、慌てて部屋から出ていった。
「はぁ、しかし大変なことになったな……。俺とソリディは宿屋で待機していただけなんだけどなぁ」
「しょうがないわよ。あれ程の騒動ともなれば国に目をつけられて当たり前よ」
洞窟が崩壊した翌日。
デナーロ王国のアヴィロ・デナーロ国王から手紙で俺たちは王宮へ来るように命じられた。
そして、今日がその約束の日であり外には数人の兵士とフードを被った人物が一人立っていた。
「……なあ、ソリディ。俺がお前の村を燃やした犯人かもしれないってなった時、身体が震えていたが今は大丈夫なのか?」
「大丈夫かって……。正直、あんたがまだ敵側の人間なんじゃないかと思うと怖いわよ」
ソリディは隣にいるリーノの腰に巻かれた布を片手で掴む。
「でも、あんたは私の村を燃やした犯人では無いのよね」
「……ああ。犯人は俺たちが出会ったセリアとバルバリって奴らだ。恐らく他にも仲間がいる」
「……なら、今は貴方を怖がる必要なんて無いわよね。私は、私の村と父さんと母さんの敵を討つ為ならどんな手でも使うわ。あんたが例え敵の仲間であっても利用するまでよ」
「だから俺はそいつらと関係ねぇよ。……まぁ、完全に疑惑を晴らす為にも俺も協力するよ」
ソリディはリーノの腰に巻かれた布から手を離すと「行くわよ」、と言いながら俺たちを率いるかのように先頭になって歩き、外へ向かった。
○ ○ ○ ○ ○
宿屋から外に出ると、部屋から見えていた兵士達は俺たちを囲むように並び、フードを被った人物が目の前に立っていた。
その異様な光景に俺は思わず息を飲むと、後ろから遅れてルーチェがやってきた。
「すまない、少し遅れてしまった」
「いや、ワシらも今来たばかりだ」
すると、フードを被った人は俺たち全員が揃ったのを確認するやいなや、手に持った俺たち人数分の黒い布を差し出してきた。
「これからアヴィロ・デナーロ国王陛下が居られる王宮へ向かいます。それに伴い、この布で目隠しをして頂きます」
透き通るような女性の声でそう言われ、俺たちは目隠しを受け取る。
ふと周りを見渡すと、兵士達もいつの間にか目隠しをしていた。
「なぜ目隠しを?」
「実は、アヴィロ国王陛下から私の魔法を国王陛下以外に見せてはいけないという
「そうなのか……。すまない、つまらないことを聞いてしまって」
「いえっ、このことはよく聞かれますのでお気になさらず。……あっ、ではそろそろ行きましょうか」
俺たちは受け取った目隠しを付ける。
視覚が遮られている中で村の人達の話し声や風の音、土の匂いがした。
だが、いつの間にか周りは静寂に包まれ、柑橘系の匂いが鼻の奥に広がってきた。
「皆さん、目隠しを外して下さい」
言われた通り外すと、目の前には巨大な扉が現れていた。
いや、扉が現れたのでは無く、俺たちが王宮内にある扉の前に瞬間移動していた。
廊下の横幅は人が横に五人で並んでも余裕のあるスペースに天井は思わず目が眩みそうになる程の高さだ。
「扉でけー……!? これだけでどんだけの費用がかかってんだ」
「俺もこういう所は初めて来たけど、ここまでの迫力があるとは思わなかったな……」
俺とリーノは視界に映る見慣れぬ光景に圧倒されていた。
一方でフードを着た女性は顔を俯かせ、フードによって隠れていた顔が更に見えづらくなっていた。
「……。それでは皆さん、中へ」
すると、人力では重く開かなさそうな扉が煌びやかな見た目に反して錆びた鈍い音を立てながらゆっくりと開いていく。
開ききった扉の向こうには真っ直ぐに敷かれたレッドカーペット。
その先で玉座に座る人物の両隣にいる二人の人物の内、獣の頭蓋骨を施した首飾りなどのアクセサリーを着け、ベールで口元を隠したこの空間には似合わない怪しげな女性が喋りだす。
「そちらへどうぞ……」
俺たちはその女性が指し示す、この部屋の中心までゆっくりと歩き出す。
部屋の中心に到着すると、女性とは反対側にいた如何にも王の側近らしい鎧を装着したイカつい男性が口を動かし始めた。
「カズト・アラカワ、エアレズ・タンザー。二人はそこで跪け。残りの三人は立っていろ」
俺とエアレズは男の言う通り、すぐさま片膝を地面に付け顔を伏せた。
そして、遂に玉座に座っている人物が怒りでもない冷ややかな声で喋り出す。
「……お前たち。ここに呼ばれた理由は……分かっているな?」
「……」
「……はい、わかっております」
エアレズから余計なことは話さないように釘を刺された俺は、この時間は無言を貫くことにした。
「単刀直入に聞く。あの洞窟はお前たちがやったのか?」
「……いえ、洞窟の中にいた二人の男の仕業です。ワシらはその男達を捕まえるために交戦しておりました。しかし、男達は置き土産に爆発魔法を唱えていきそのまま何処かへ逃げていってしまったのです」
「それであの洞窟は崩落したと……」
「……はい」
アヴィロ国王はそのまま目を閉じ数秒間黙った後、ようやく目を開き喋り始めた。
「分かった。……質問は以上だ、そこで跪いている二人は立て。そして、しばらく待っていろ」
以外にもアヴィロ国王はあっさりと尋問を終えた。
すると、アヴィロ国王の隣にいる怪しげな女性は国王に何かを耳打ちした。
「そうか……。いいぞ、入ってくれ」
アヴィロ国王は先程よりも少し声量を上げてそう言うと、俺たちが入ってきた扉は先程と同じような音を立てて開き始めた。
扉の方に顔だけ振り返ってみると、そこには明らかに普通の人間とは決定的に違う部分がある。
「よく来てくれたな、魔王」
「はぁ……。アヴィロさん、いい加減僕のことを『魔王』と呼ぶのはやめてくださいよ。僕はオルダというちゃんとした名前があるんですから。……お願いします、ね」
オルダは自分の名前を言いながら左胸辺りに右手を当てて律儀に礼をした。
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