第6話赤バナナ、青バナナ、黄バナナ(3)

 バルバリが投げた赤バナナは縦に回転しながら真っ直ぐ俺達に目掛けて飛んでくる。


「しゃがめっ、カズト!」

「……グッ!?」


 俺の頭上をゼロ距離で通り過ぎていった赤バナナは、岩壁にぶつかり潰れた音がした。


「距離をとるぞ」

「わ、分かった!」


 戦闘経験がゴブリンとしかない俺はエアレズの指示で動くしかなかった。

 エアレズの言う通り、潰れた赤バナナから距離をとった瞬間――。


「……ぬっ!」

「うわっ!?」


 赤バナナは爆発と共に背後の岩壁を崩壊し、道を塞いだ。

 それと同時に俺達はバルバリに向かって二手に分かれる。


「ふふっ、これで貴方達は逃げることが出来ませんね」

「それはお前さん達も同じだっ!」


 爆発に乗じてエアレズはバルバリに近づき、片手に持った斧を横に薙ぎ払い近距離で攻撃しようとする。


「おっと、危ない」

「グハッ!」


 しかし、セリオがエアレズの真横からリーチの長い脚でエアレズの足を掬う。


「貴方は素早いので、一瞬でも隙を見せると攻撃が当たってしまうでしょう。ですが……」


 エアレズの足を掬う為にしゃがんだセリオを俺は背後からバナナを振り落とそうとする。


「くっ!?」


 素早く立ち上がったセリオに手首を掴まれてしまい、こちらも攻撃を抑えられてしまう。


「カズトさん、貴方は無駄が多すぎますよ。バルバリ、熟成していない『レッドバナナ』で今の内にカイトさんに攻撃を」


 俺の手首を掴むセリオの手を必死に剥がそうとしながら周りを見渡してみると、いつの間にかバルバリは姿を消していた。


 そういえば、バルバリはセリオの後ろにいたはずだ。

 なのに俺が背後に回った時はいなかった。

 何処にいったんだ……。


 すると突然、俺の横から人の気配を感じた。


「へっ、爆発だぜ」


 レッドバナナを片手に持ったバルバリは横側に現れ、投げつけてきた。


「させるカァっ!」


 いつの間にか立ち上がっていたエアレズは何処から出したのか、人一人分の大きさをした盾で俺を守ってくれた。


「そして、お前さんはカズトを離せっ!」

「くっ!」


 エアレズは大きい盾をそのまま横に動かし、セリオの腕を叩きつけた。


「……ハァ、ハァ。ありがとう」

「大丈夫か」


 俺達はすぐさまセリオ達から距離をとる。


「……セリオは司令塔だ。だが、アヤツはただの塔ではなく攻撃に関しても優れている。バルバリは基本的に司令を受けてから行動する。そこさえ気をつければ……」

「待ってくれ。俺が攻撃をする時、バルバリの姿がなかったんだ。あんな目立つ奴を見逃すと思うか?」

「もしかすると……」

「何をよそ見しているんです、かっ!」


 セリオは振り上げた脚を俺達に目掛けて振り下ろしてきた。

 しかし、俺達はそれを横に避ける。


「……セリオ。お前さんの扱える魔法は、『対象の姿を隠す』魔法だな」

「……。クククッ……、バルバリ。今ですっ!」

「どりゃあ、超必殺【大量爆発手裏剣】っ!」


 何処からともなく聞こえた声が、密閉されたこの空間に響き渡る。

 同時に上を見上げると、ただでさえ薄暗いこの空間を空中に浮いた無数のレッドバナナの影で覆い尽くされていた。


「なんだ……これ……!?」

「分かっているのか……。アレが落ちてくれば、お前さん達も……」

「先程、貴方は私達を『異世界人』と呼びましたよね。似てはいますが、正確には違います」


 すると、先程まで姿が見えなかったバルバリはセリオの横で突然として現れた。


「もしかして

「ええ。目的も済みましたし、帰りますよ」


 セリオは右手を前に突き出し、空間が歪んだと思いきや何もない空間に『扉』が現れた。


「私達は未来から来ました。この世界――『アノルマ』の未来から」

「……。なら何故、この時代にやってきたんだ」

「実は、私達の時代では『魔力』が枯渇してしまっているのです。ある一人の異世界人のせいで……」

「異世界人のせい、ってどういうことだよっ」


 セリオは笑ってはいるものの、額に血管を浮かばせながら喋る。


「それは詳しく話せませんが、何せ、魔力が無いと魔法も使えず生活が大変不便でして……。そこで、魔力を枯渇させた異世界人とはまた違う異世界人から知恵を貸してもらい、私達は『科学』を発展させたのですっ!」

「なぁ、帰るなら帰ろうぜ。をずっと空中で止めるの疲れるんだよ」


 興奮しているセリオに対して、バルバリは空中に浮いている大量のレッドバナナを指しながら帰りたがっていた。


「……はぁ。もう一回聞くけど、なんでこっちの時代に来たんだよ」

「フフフっ、分かりました。余計な説明は省きましょう。貴方々の時代にはバナナの草が植えられており、この世界の魔力を栄養にして育ちます。そのバナナを食べることで体内に魔力を蓄積し、魔法が使える。それを私達は『ビジネス』にしているのです」

「ビジネス……。まさか、他にも仲間が……ぐっ!」


 セリオは説明を終えると扉を開けた。

 すると、直視出来ない程に眩しい光が空間内を埋めつくした。


「くっ、逃げられたか」


 光が収まる頃にはセリオ達と扉は跡形もなく消えた。

 しかし、レッドバナナだけは空中に残ったままだった。


「……どうする、エアレズ」

「ワシの魔法を使うしかない。怪我は免れないが、使わないよりましだ。……すまない」

「いや、いいよ」


 そうしている内に、バルバリの魔法が切れたのか全てのレッドバナナが落ち始めた。


「頼む」

「……わかった」


 エアレズはしゃがみこむと地面に右手を当てる。

 すると、頑丈な岩場に穴が開き、いばらの付いた蔓が飛び出してくる。

 蔓は俺達に向かってくると、身体中を包み込み無数の棘が肌に食い込んできた。


「があっ!?」


 俺達を一つの隙間もなく包み込んだ蔓は肌からでも感じる程に硬質化していき、降ってくるレッドバナナの爆発から身を守った。

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