第4話赤バナナ、青バナナ、黄バナナ(1)

「ハァ、相変わらず暑いな」

「カズトはこの森に住んでいたのだから慣れているんだろう。……まあ、それも嘘だろうがな」

「……」


 トロール討伐道中の森の中。

 ルーチェと俺はエアレズを挟みこんで、最悪な空気を漂わせながら洞窟へ向かっていた。

 宿を出た後、アルクニ村の道具屋で役にたちそうな道具を調達し、武器屋では俺にある程度の装備を準備してもらった。

 といっても、そこら辺にいるゴブリンと互角になる程度の安い装備らしい。


「なあ、今更だけど、なんで俺を連れてきたんだ?」

「カズトは悪魔で村を襲ったヤツらの一員の可能性として捕らえられているんだ。あの宿に置いては行けないから、それならトロール討伐の協力……。いやっ、餌として活躍してもらいたいからな」

「……」


 最初に出会った時の印象と違い、本来の性格なのかルーチェはすっかり性悪女と化していた。


「おっ、どうやらもう少しで森を抜けるぞ。ふう、長かった」


 そう言われて森の奥を見てみると、岩の壁にポッカリと大きい穴が空いていた。


「あれが洞窟か……」

「洞窟の中は何が起こるか分からないからな。注意しろ」


 森を抜けると、ルーチェとエアレズはそれぞれの武器を持って洞窟の中へ。

 俺も背中に背負っていた鞘から安い鉄製の長剣を引き抜き、二人の跡をついて行った。 そして、ズボンのポケットにはバナナを入れたままだった。



 ○ ○ ○ ○ ○



「ハアァァアアッ!」

「フンッ! ドリャッ!」


 二人は洞窟内を住処にしているゴブリンやスライムを難なく倒しながら奥へ、奥へと進んで行った。


「ハァ、ハァ。何処にいるんだよ、トロールは……」

「カズトっ、後ろだ!」

「えっ。どっ、わあっ!?」


 いつの間にか俺の背後はゴブリンに取られていた。

 慌て剣を振ったが、動きの速いゴブリンには俺の攻撃が当たらなかった。


「――ハァッ!」

「あ、ありがとう。エアレズ……」


 エアレズは片手で持つことができる大きさの斧で、ゴブリンの頭を的確に狙って一撃で仕留める。


「お前さんには、トロールの餌として活躍して貰わなきゃならないからな」

「アハハ……」


 演技をしていると分かってはいるが、トロールの餌扱いにされると流石に心にくるものがある。


「というか、この洞窟。ゴブリンが沢山いるけど、こういうものなのか」

「そうだな……。元々ゴブリンの住処だった洞窟をトロールが独占し、ゴブリン達を自分の手下として洞窟を守らせているのか。あるいは……」

「待てっ!……何か、聞こえる」


 突然ルーチェは、口元で人差し指を立て『静かに』というジェスチャーをして立ち止まった。

 すると、洞窟の奥から誰かの喋り声が虫の羽音ぐらいで響いて聞こえてきた。


『早く済ましてくれないか。あの野蛮人達が来る前に』

『わあった、わあった。スウー……』


 それから、数秒が経った。

 洞窟の奥から聞こえてきた声はすっかり止んだ。


「話の内容は分からないが、この奥に二人の人間がいるのは確かだ」

「どうすんだ? このまま奥に進むのか」

「……もう少しだけ、まとぉ――」


『喰らえっ!』


「「「!?」」」


 数秒間の静寂をかき消すように大きい声が再び洞窟の奥から聞こえてきた。


『おいっ!あんまり大きい声を……』

『俺の必殺技【爆裂手裏剣】!』


「お、おいっ。奥で何が行われているんだっ」


 ルーチェは動揺しているのか、声を少し大きくして俺の顔を見ながらそう言った。


「しっ、知らねぇよ。ていうか、もう少し声のボリュームを下げ――」


 その瞬間、俺の話を遮るかのように突如として奥から轟雷のような爆発音が鳴り響き、同時に洞窟内は爆発の熱に包み込まれ振動と連動して天井から小石が落ちてきた。


「くっ、どうなっているんだ!」

「分からんっ! だが、奥にいる奴らが何かやりやがった」

「逃げるかっ?」

「いや、謎の二人の人物を捕獲する。アルクニ村から数キロ先にサルマーレという都市がある。そこの自警団に引き渡そう」


 ルーチェは振動が収まってくると同時に奥へと駆け出した。


「ちょっ、待ってくれって!もしかすると天井が崩れて……」

「ワシらも行くぞ。カズトっ!」


 エアレズはそう言って、俺の左手を力強く掴んで爆発音がした場所まで引っ張っていった。

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