第3話バナナの安全性の検査
「うぅうん……ッ!ハァ、ハァ。夢っ……じゃ……なさそうだな」
慌てて起きると、俺はどこの建物かも分からない、部屋の隅にあるベッドで寝ていた。
部屋の中は木製でできた丸机と一人用の椅子が二つ。
それと、年季の入ったドレッサーが設置されていた。
状況が分からないままボーッとしていると、不意にあの時のことを思い出してしまった。
「待てよっ、俺って切られたはずじゃあ……!」
首元を触ってみたが、かすり傷すら一切無かった。
更には目眩も無く、体調は元に戻っていた。
(どういうことだ……?)
訳も分からず考え込んでいると、ベッドとは対角にある部屋の扉が突然開いた。
「誰だっ!」
「……俺だ」
「……エアレズ」
今思えば、エアレズがルーチェに何かを吹き込んだのが事の発端の始まりだ。
「どうして俺は生きているんだ。それに、ここはどこなんだ。……おいっ、エアレズ!」
「……。すまないっ!」
「っ!?」
エアレズは部屋の中の扉の前で土下座をして、突然謝ってきた。
「おっ、おい、どうしたんだ? なんで土下座を――」
「ああするしか無かったんだ。……お前さんを守る為に」
「……守るって、何言ってんだ。むしろ殺されかけたんだぞっ!」
「そうだ。だから、ワシは謝っているんだ!」
「……っ」
ひとまず矛盾した事を話すエアレズから事情を聞く為、お互いに椅子に座って話すことにした。
「でっ、俺を守る為ってどういうことだ?」
「……カズト、この世界の者では無いな」
「っ!?」
「やはりそうか……。実際に見るのは初めてだが、お前さんの珍しい服装に珍しい名前。『恩師』から貰った本に書かれた特徴と似ておる」
「その恩師って誰なんだ」
「……それだけは言えない。あの方の名前を言えば、私は皆を裏切ることになる」
「……」
『皆』、というのはルーチェ達のことだろうか?
色々と気になることはあるが、このままだと話が脱線すると思い追求はしなかった。
「じゃあ、なんでその本に書かれた特徴と俺が似ているからって、守ろうとしたんだ? ……まぁ、守られてねぇけど」
「……ワシは恩師からそうするように言われて役割を担っている。実はお前さんのように他の世界からやって来る人達はたまにおる。この世界で最も大きい博物館に様々な資料が置いてあってな。それらに、異世界人らしき人物達について記載されとる。……そうだっ、ちょっと待っていろ」
エアレズは椅子から立ち上がり、急いで部屋の扉を開けた。
「わあっ、エアレズ! なんでこんな所にいるんだ」
「ルーチェ、お前さんこそどうしてここに……」
しかし、部屋の扉の前には何故かルーチェが立っていた。
タイミングが悪すぎる……。
俺を何から守ろうとし、なぜ俺を守ったのか。そして、俺以外の異世界人とこの世界にどう関わっているのか、など。
色々と聞きたいことはあったが、今は駄目そうだ。
「私は、そこにいるカズトを尋問しに来た。エアレズは?」
「……」
エアレズは一瞬だけ申し訳なさそうにこちらへ顔を向けた。
「実は、ワシもあやつに尋問をしていた所だ」
「そうだったのか。何か情報は得られたのか?」
「いや、残念だが大した情報は得られなかった。だが、少なくともあやつはソリディの村を襲った奴では無さそうだ」
「……本当か?」
「……ああ、本当だ。あやつに敵意はない。だが、まだ油断は出来ない。敵意は無くとも、何かしら繋がりがあるかもしれない」
「……そうか、分かった。なら、カズトと私とエアレズで行くか」
『支度をしてくる』と言い残し、ルーチェは自分の部屋へ戻っていった。
「エアレズ。行くって、何処に行くんだ?しかも、俺と二人でって……」
「すまん、カズト。理由があってな……」
○ ○ ○ ○ ○
「トロールの討伐……」
「実は、あの森の近くにアルクニ村という小さな村にワシらはたまたま訪れていてな。そこの村長に依頼されたんだ」
「もしかして、トロール討伐の道中で俺と出会ったってことか」
「ああ、そうだ。あの森の奥地にあまり人が出入りしない洞窟に住んでいるらしくてな。あの森に入った村人が村に帰って来ないらしく、それがトロールの仕業ということらしい」
俺の元にルーチェ達が近づいてきたのも、ルーチェが俺を行方不明者と勘違いしたからか。
俺の目線からではどうしても『悪人』にしか見えないが、ルーチェは他人の為に善を尽くすタイプなのかもしれない。
敵が相手だと容赦がないが……。
すると、エアレズは少し難しい顔をしながら喋り始めた。
「だが、あの森に近づくのは危険だということが分かった。ソリディにはこのアルクニ村の宿で休んでいてもらい、リーノに護衛として残って貰うことにした」
つまり、この建物はアルクニ村の宿で、俺はここまで運び込まれたということか。
そして、相変わらずエアレズはソリディを気遣っているらしい。
「なあ、危険ってどういう――」
「よし、準備は出来た。行くぞっ!」
「……」
またしてもルーチェは俺の質問を遮るように部屋のドアをノックせずに入ってきた。
『なぁ、エアレズ。もしかして、ルーチェって……』
『ああ、そういう所がたまにあってな』
ルーチェには聞こえないように小さな声でそんな会話をした。
「んっ? どうしたんだ、エアレズ」
「いやっ、なんでもない。行くぞ」
俺達はアルクニ村の宿を後にし、トロールがいるという洞窟に向かった。
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