2024年8~9月

前世では恋人でしたか熱心な視線でいぬに見つめられてる


転がっていくミンティアの数粒が地球をすこし爽やかにする


こんなにもわたしは主人公じゃない気持ちを表さない晴天は


老木はじっと見ている僕が生き時々泣いて笑うところを


何も無いがあるわが家です冷凍のピザと麦茶で見る金ローのジブリ


ダンジョンよ、より複雑に長くなれあの子と迷い続ける梅田


落ちのないはなしに慣れてきたころに別れるなんて言わないでくれ


どこまでが自分なのかもあやふやになってく外気浴の時間は


滝音に紅葉の天ぷら見せつける十年前と変わらぬわたしは


どこへでも行ける体を持ちながらベッドの中できみと微睡む


何年もいっしょにいるのにきみの書く文字の丸みをはじめて知った


第一のそして唯一の読者なるあなたよ知って私のはなし


無造作に月見牛丼持ち帰る十五夜のこと知らないままで


真夜中はきっとやさしい 終電を逃した街でも月はあかるい


満員の電車で見かけたあの夏のライブTシャツ おお戦友よ


九九だってあやふやなまま生きてるし好きかだなんて決めらんないよ


これくらい出来ると捏ねる樹脂粘土 召喚されるは異形の神々


ロボットに押し付けるだろう繁殖も残ったものが人間だろう


せめてもの抵抗としてこの夏も黒いTシャツばかり着ている


欲しいのは小さな秋よりでかい秋特大サイズの和梨のパフェよ


えらかった 白詰草の冠のわたしは世界の中心だった


脱いだまま揃えられない靴がない整然としたさみしい玄関


イヤホンを当てても防げぬ心臓があなたに期待してしまう音


太陽に向かって投げた苦しみをトンビが咥えていってしまった


突き立てる勇気もなくて深藍のインクにガラスペンを浸した


強過ぎる陽射しが皮膚をいじめ抜き消えない瑕が残る右肩


十九時の区民プールにいつもいる名前も顔も知らぬ戦友


誰とでも仲良くできるミカだけがわたしの友だちなんだよ、雷雨


クーポンを利かせて五百円で聞くわたしの前世は立派だったと


カレーすらまずく作れる才能で我が家くらいは平和にしたい


終点の知らない駅で降りたとき入道雲が追いかけてきた


カラカラに乾いたセミの死骸踏む自転車を漕ぐみずみずしい脚


裏庭のセキセイインコのお墓からアサガオ芽吹き、咲き、種になる


いつだってきな粉は舞うし諦めて信玄餅をじゆうに食べる


意味のない鳴き声みたいなことばだけ交わしあってる熱帯夜 きみと


最上川ライブカメラをつけたままそぞろに仕事を片付けていく


うつくしく清潔すぎるこの街で生きていけないタイプのぼくら


居酒屋のテレビで流れるナイターの方が楽しいつまらん男


七日目なのかめに休んだ神も八日目ようかめに溜まったメールに嘆くのだろう


帰り道いつもふたり公園で話してたのに(卒アルにいない)


この夏と向き合う覚悟を決めて買う九十九パー遮光の日傘


はしばしに残る思い出消すように引越し前に雑巾かける


不忍の蓮のうてなで眠るときワオキツネザルらと夢を分け合う


ブラジャーとセットのパンツをやめてからわたしはずいぶん自由になった


二丁目の祠のそばにひっそりとバナナジュース屋できて、潰れる


わたしたち飼いならされて革命もゲームの中のスキルになった


だってもう紙ストローも受け入れて生きてるんだし、純潔なんか


とりあえずビールじゃなくていい時代、心を込めてビールを頼む


ずぶずぶとボールプールに沈みたい死なないための儀式のように


わたくしのおなかの中にも海はありいのちの系統樹が伸びてゆく


懸命に類語辞典を捲ってもけっきょく愛に戻ってきちゃう


死んでいく この国以外の男性を知らないままにおんなが終わる


けっきょくは何も出来ずに終わる夏出さないままの去年の風鈴


麦切りを何年食べてないだろうもくもく素麺茹でる都会で


暑そうな外を眺めるリモートのカメラを切って取り出すアイス


書く文字であなたを判別したいから往復書簡はじめませんか


懸命に類語辞典を捲ってもけっきょく愛に戻ってきちゃう


青色で肌を塗ってもいい何も禁止なんかはされてないんだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る