第49話
順調な航海が続いていた。戻ってきた平穏な日々は、離れ離れに過ごしていた時間を少しも感じさせることなく、以前のまま、今まで通りだった。
その日、ディープがひとり、食堂でコーヒーを飲んでいると、通りかかったラディが気がついて入ってきた。
「ご苦労様。ディープはこれから当直?」
「うん、今、眠気覚ましにコーヒーを飲んでたんだ。ラディも飲む?」
立ち上がりかけたディープに、
「あ、いいよ。自分でやるから」
ラディはディープの前に座った。
「ところで、モーリスのことだけど、大丈夫そうじゃないか」
「うん、今のところはね」そして、クスッと笑った。「あいかわらず心配症だね」
「お互いさまだろう!」
ラディはごまかすように語気が強くなった。
お互い思っているのは同じだということを、ふたりともわかっていた。このまま何事もなく過ぎていくように願っていることも。
やがて、目的地ソマリスをスクリーンでとらえることができるようになった。ソマリスはペルセウス星団の第5惑星で、美しい星だったが、戦争によって破壊され、氷と雪に閉ざされている今、見る影もなかった。
船は現在、周回軌道上にある。
飛行艇での調査にあたり、グラントは今回の調査を2機で行うと決めた。ソマリスは1機で調査するには大きすぎるのだ。
クジの結果は、グラントとステフ、ディープとモーリスのペアで、ラディは残留と決まった。彼は不満そうだったが、さすがに何も言わなかった。出発は明朝である。
その夜、ラディが操縦室で当直していると、
「ラディ」モーリスが来た。
「まだ起きてたのか」
「ん…」モーリスはうなずいたあとで、「ごめんね、ラディ。本当は行きたいでしょう?」
「それはそうだけど?」
「グラントに、今回2機で行くべきだと言ったのは、僕なんだ」
ラディは小さくため息をついた。
「もう、いいよ。決まったことだし。たまには留守番というのもいいさ。それより、もう寝ないと明日にひびくよ」
「うん、じゃあね。おやすみ」
「おやすみ。明日は気をつけて行くんだよ」
「うん」
モーリスが去ったあとで、ふとラディは思った。何も起こらないで欲しいと。
(あいかわらず心配症だね)
そう言って笑ったディープを思い出す。
「わかってるよ」ラディは小さくつぶやいた。
しかし、ラディのその想いは裏切られることになる…。
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