第48話
こうして、5人がそろうのは、ヘルマ以来のことになる。モーリスは4人に船を案内した。
「基本的な構造は変えてないんだ。でも、新しくしたところもあるんだよ。操縦室へ行こう」
操縦室に入ると、懐かしさがこみあげてきた。以前、過ごした時間が、いっぺんによみがえってくるようだった。モーリスは照明のスイッチを入れた。
「今回、大きな変更は、補助コンピュータを2台搭載したことなんだ」
そう言って、モーリスはいくつかのスイッチを操作した。
「ひとつは航法補助コンピュータのNAVIで…」
「ハジメマシテ。ワタシガNAVIデス。ドウゾヨロシク」
次に、モーリスは後ろをふりむいて呼んだ。
「もうひとつは…、SUB!おいで」
ピピッとそれに答えるように音がして、入ってきたのはロボットだった。身長は1m程で、円筒形のボディと半円形の頭部があり、顔の造作のように配置されたランプが光る。
SUBはランプをチカチカ点滅させて、
「ハイ、ワタシガSUBデス。フネノセイビカラ、チョウサ、データカイセキ、マタ、ニチジョウセイカツノコトマデ、ミナサンヲオテツダイシマス。ドウゾヨロシク」
「よくできたね。SUB」
モーリスがそう言うと、SUBはピピッと音を立てて答えた。
船はひと月後、ソマリスの調査に向けて出発する予定だった。
「僕には強要することなんてできないから。ただ、みんなが来てくれるのを待ってる」
グラントとステフと別れて帰る途中、ディープは気にかかっていたことを口に出した。
「ラディ、どうかした?さっきから何かおかしいよ」
ラディは少し黙っていたが、
「…うん。ごめん。モーリスが来たとき、ディープに連絡しなくて」
「そのことなら、もういいよ」
それはもう済んだことだった。
「ディープ、本当のところを聞かせてくれないかな。モーリスは大丈夫だと思ってる?」
ディープはすぐには答えなかった。
「…僕にはわからないよ。保証することなんてできない。だけど、モーリスがどうしても行くと言うなら、止めることはできないから、一緒に行くだけだよ。僕にできるのは、それだけ。…まだ何かあるの?」
ラディは答えなかった。また船に乗るなら医師としてのキャリアを中断することになるはず。それでも何のためらいもないディープがうらやましく思えた。
「何?はっきりしないなんて、ラディらしくない…」そのとき、ディープは思いあたった。ラディの口数が急に減ったのは、モーリスがSUBの説明をしたあたりからだった。「ラディ、まさか自分は必要ないなんて、本気で考えているわけじゃないよね?ラディもモーリスも同じことを考えていて、やり方が少し違うだけじゃないか」
「わかってる。でも…」
「でも、何?どうしてわからないの?モーリスにはラディが必要だってこと」
「…少し考えたいんだ」
そうしてふたりは別れたが、ラディの背中を見送りながら、ディープは思っていた。
(ラディこそ、最初に一緒に行くと言うと思っていたのに!)
1か月の間に、準備は着実に整いつつあったが、しかし、出発の1週間前になっても、ラディとディープからは何も連絡がなかった。
その夜、暗い操縦室にひとりたたずんで、モーリスは外を見つめていた。眠ることのない宇宙港の明かりが、目の前に広がっている。
「眠れないんですか?」
ヴァンの声に、彼はふりむいた。
「ん…。いろいろ考えることがあって」
ヴァンにはモーリスの気持ちがよくわかった。
「おふたりのことが心配なんですね」
「少し…ね」
「大丈夫ですよ。おふたりとも行かないと言ったわけじゃないんですから」
ヴァンは繰り返した。
「大丈夫ですよ。きっと来ます。何か訳があって少し遅れてるだけですよ」
「そう…だね」
それはむしろ自分に言い聞かせているかのようだった。
「もう寝るね」
そう言って出ていくモーリスを、ヴァンは黙って見送った。
そして、3日後、ラディとディープのふたりから連絡があったが、約束の時間を大幅に過ぎてもふたりの姿はみえなかった。ふたりとも、今まで時間に遅れるようなことはなかったので、
「ハッチの方、見てくるよ」
ステフは心配になって、操縦室を勢いよく飛び出した。その途端、そこにいた誰かと思いきりぶつかって、床に尻もちをついてしまった。
「アッツ…。ステフ、ずいぶん手荒な歓迎してくれるんだね」
同じように床に座りこんでいる相手が言った。
「ディープ!」
ステフの声に、グラントとモーリスも飛び出してきた。
「遅くなって、ごめん」ディープを助け起こしながら、ラディが言った。「ハイウェイが事故渋滞で、身動き取れなくて」
「ようし、みんな準備にとりかかろう」
グラントの声が明るかった。
操縦室では、SUBが迎えてくれた。
——帰ってきた。これで全員、帰ってきた。
「機関室に行ってくる」
そう言って部屋を出たラディをSUBが追い越していく。その頭を彼は軽く叩いた。
「よろしく、SUB」
SUBはそれに応えるように、頭だけクルッと回して、ランプをチカチカさせ、ピピッと音を出した。
3日後、
「航海の無事を祈っていますよ」
見送りに来ていたヴァンが、船を降りて行った後で、船は定刻通りに地表を離れた。
——新しい船と、いつもの仲間達。そして、新しい旅がはじまろうとしていた。
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