終章 明日へ
第46話
明かりをおとした人気のない薄暗い整備工場の中で、靴音だけが響いた。骨組みだけの船のシルエットが黒々と浮かび上がる。モーリスは足を止めた。
(帰ってきた…)
彼はひとり船を見上げ、たたずんでいた。
「…坊ちゃん?」
その声にモーリスがふりむくと、ヴァンが立っていた。
「坊ちゃん…」そこで急にヴァンは姿勢を正した。「お帰りなさい。チーフ」
パッと照明がついて、
「お帰りなさい!」
「チーフ!」
次の瞬間、口々に迎えるスタッフに、モーリスは囲まれていた。
メディカルセンターで仕事をしていたディープは、ふとその手を止めて、想いをめぐらせていた。
ようやく退院させることができたモーリスのこと。
モーリスの日常生活面でのことや体調管理については、ヴァン工場長が引き受けてくれた。自分よりもずっと細やかにきちんと気を配ってくれるとわかっていたから、その点では安心できた。ただ…どこまでいけるかということだけがわからなかった。
(わかってるよ、ラディ。どこかで、モーリスをひとり立ちさせなければならないってこと。心配ばかりしていても、しかたないよね。きっと大丈夫だよね)
退院後、1週間の検査では特に大きな問題は見られなかった。ディープはひとまずホッとして、知らせに向かった。
「…そうですか。良かった」
ディープとヴァンが話しているところへ、モーリスが飛びこんできた。
「ディープが来てるってホント?」
「坊ちゃん!まだ休んでいなきゃダメです」
ヴァンがいきなり強い口調でたしなめたので、ディープは少し驚いた。モーリスは黙って、肩をすくめている。
「と、言いたいところなんですが、いいでしょう。今だけ大目にみます」
モーリスの顔に喜びの色が広がった。
「ありがとう!ね、ディープ、来てよ」
モーリスはディープの手を引っぱった。ヴァンはそんな様子をあたたかく笑って見送った。
暗い工場の中に、足音が響く。
「ね、見て。これが僕達の新しい船だよ」
黒いシルエットに気がついた瞬間、照明がついて、その明るさにディープは手をかざした。やがて、目が慣れて、照明を反射してきらめく外装に描かれているのは、新しい船名だった。
『NEW HOPE Ⅱ』と。
(ああ…)
「ね、良いでしょう?」
見上げているディープの横に、モーリスが並んで言った。いつのまにか来ていたヴァンが、モーリスの肩にそっと上着をかけた。
「ありがとう。ヴァン」
(そう…だね。きっと、大丈夫だね)
ディープはそう信じたかった。
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