第29話

 通路を行く5人の先頭を歩いていたラディが、ふいに壁にはりついた。

「シッ。ストップ!」

 4人もそれにならって、通路の壁に身を寄せた。交差した前の通路に、銃を抱えた数人の姿があった。

「いたか?」

「いや、こっちはまだだ」

 男達は走り去った。

「この先は無理みたいだ。戻ろう」ラディが言った。


 ディープはモーリスの顔色の悪さに気づいた。

「モーリス?大丈夫?」

「うん、だいじょう…」

 言いかけたモーリスのヒザの力が抜けて倒れかかるところを、ディープは急いで抱きとめた。

「あ…」

 モーリスは目を開けた。

「少し休もう」

 グラントが言って、先程引き出した情報から、一時的に隠れられそうな場所を探すことができた。


「これからのことだけど—」

 グラントが切り出した。しばらくここにいても見つからずに済むかもしれないが、それでは何の解決にもならなかった。

「モーリスは動かせないよ」

 ディープが言った。

「うん、モーリスはここにいてもらう」

「モーリスひとりで!?」

 グラントはステフに首をふった。

 ラディは3人が自分を見ていることに気がついた。

「何…?」

「ラディ、モーリスを頼むよ」グラントが言った。

「だったらディープが残ればいいじゃないか!」

 ディープは首をふった。

「まだ、熱あるんだよね?冗談じゃない。半病人なんて足手まといだよ」

「ディープ!」

「モーリスをお願い、ラディ」ステフが言った。

 3人は立ち上がり、一緒に腰を浮かせかけたラディに、

「モーリスのためには、ラディが残るのがいちばんいいと思うよ」

 グラントの言葉に、ラディの動きが止まった。


 足音が遠ざかり、3人は行ってしまった。

 静かだった。静かすぎた。壁に寄りかかるようにして座っていたラディは、急に睡魔に襲われた。

(しっかりしろ!ラディ!)

 頭をふって、眠気を追い払おうとしても、どんよりとして、まぶたが重い。

(おかしい…)

 気がついたときには既に遅かった。

(催眠ガスだ…!)

 引き込まれるように意識が遠ざかり、ラディの身体はそのまま横向きに倒れていた。

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